小池都知事の「通信簿」と2期目の展望(下):都議会対策と都職員の信頼回復をどうするか
政治・外交 東京2020 都市- English
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<前編はこちら>
都職員の42.6%は再選出馬に反対だった
圧勝した7月の都知事選の結果と、小池知事の下で働く都職員の知事評価には、大きな開きがある。後藤氏が編集長を務める「都政新報」が昨年末、小池都政1期目について行った職員アンケート(今回のアンケートは昨年11~12月、「都政新報」購読者の都職員を中心に800人を無作為抽出して実施。うち223人が回答)では、小池氏の「再選出馬には反対」が42.6%で、「賛成」21.5%の倍近くあった。「分からない」は34.5%だが、再選出馬反対の声が多かったのには驚く。
「賛成」の理由は、「合格点ではないが、五輪を他の人がやるのは無理がある」(50代課長)など、五輪を考慮した意見が目立った。「反対」は「都政がさらに劣化する」(50代部長)など、将来を心配する声が聞かれた。
都職員は小池知事1期目の都政運営で何を不満に思っていたのか。職員の共通認識だったのが「パフォーマンスが先行している」で、「はい」が93.7%を占めた。「独断的な行動が都政運営に影響を与えている」が89.7%、「都政を政局にしている」も88.8%と高かった。一方、「職員の声に耳を傾けている」には86.5%が「いいえ」と答えた。
都職員が小池知事に不信を抱くきっかけになったのは、初当選後間もなく、大学教授ら外部有識者を招き、特別顧問らを重用し、築地市場の移転など主要問題の検討を行ったことにある。「小池劇場」などと揶揄(やゆ)された混乱で、市場の豊洲移転は2年遅れた。都議会からも「都職員が軽視されている」と批判され、1年半ほどで特別顧問は廃止された。
「小池さんが都政、都庁を大改革するためには、最初はよそから人を連れてきて、外部の発想で行うほかなかった。築地問題はそれまでの都政で豊洲移転が決まっており、都の職員にいくら話しても再検討にならないから、自分のブレーンとなる特別顧問団を設けた。しかし、こうしたやり方は職員に支持されるはずがなかった」と後藤氏は言う。
局長の降格や3か月の超短期異動など、小池知事になってからの人事が“見せしめ”、“懲罰人事”とも批判された。職員アンケートには、「懲罰人事で幹部が萎縮して、自由にものが言えない雰囲気があると感じる」(50代課長)。こんな意見もあった。「度を越した女性優先で人事を破壊しており、職員は女性管理職を警戒するようになった」(40代課長代理級)
都議会の不毛な与野党対立にうんざりする都職員
小池都政を語るのに、都議会自民党との関係は欠かせない。小池知事は今回の知事選で自民、公明両党の実質支援を受けたが、自民党都連とは深い溝がある。都知事初当選の翌年(2017年)の都議選(127議席)で、小池都政の反対勢力だった自民党は選挙前の4割の23議席にとどまり、歴史的敗北を喫した。
小池知事が率いる「都民ファーストの会」は49議席(追加公認を含め55議席)で大躍進し、最大会派に。だが、与党第1党になったものの、7割が新人議員で、会派の未熟さは否定できない。
職員アンケートでは、「自民を過度に敵視した議会運営は、国との連携が必要な各分野の職務についている職員にとってはマイナスでしかない」(50代課長級)。また、「小池知事を一切批判せず、ヨイショばかりの都民ファが駄目にしている。猪瀬直樹、舛添要一知事を辞職に追い込んだ自民党のように、時には批判するような与党でなければ存在意義なし」(50代課長代理級)との指摘もあった。
後藤氏は「与野党の不毛な対立に都職員はうんざりしている」と見る。
今回の知事選と同時に行われた都議補選において、北区では主要4党が公認候補を立て、都民ファは小池氏の元秘書を擁立した。しかし、知事が表立った応援を行わなかったこともあり、都民ファ候補は当選した自民候補の得票の半数にも達せず、立憲、維新候補に敗れて4位だった。小池氏の積極的な応援がない都民ファは票が獲れないことが証明された。
小池都政の野党になった自民が、来年の都議選で都民ファに奪われた議席の奪還を目指してくるのは確実だ。議会勢力はまた大きく変わる可能性も強く、小池知事の議会運営も手腕が試されることになろう。
「五輪後の都政に小池知事は興味を持てるのか」
小池知事は任期途中で国政に転身することがあるだろうか。前回で述べたように、2期目は「コロナ対策」がうまくいくかにかかっている。もしコロナ対策が奏功し、五輪を成功させ、ポスト安倍の政権がつまずき、「小池待望論」が巻き起こったら――。
1期目にも転身の動きがあっただけに、このことが、やはり都職員の知事に対する不信感に大きく影響している。アンケートには、「4年間で考えた場合、五輪後の都政に小池知事が興味を持てるかは疑問」(30代課長級)と早くも五輪後を心配する声や、「都知事は国政の踏み台ではない」(50代課長代理級)との指摘もあった。
小池氏の半生が描かれた『女帝 小池百合子』(石井妙子著、文藝春秋)がベストセラーになっている。
「小池さんは判断も早く、情報収集能力も高く、勉強家で、すごい人、という声はよく聞く。しかし、身近にいる人から、小池さんはいい人だ、ということはあまり聞かない。外からはよく見えるが、近くで見ると違うことがある。あの本と、都職員アンケートから浮き彫りとなった小池百合子像が一部似ているのかもしれない」と後藤氏は言う。
後藤氏自身の小池都政に対する採点は、「厳しめですが、50点」だという。「都庁のポテンシャル(潜在力)をまだ活かしきれてないからです。職員と知事がもっとうまくやって、都庁の組織を使いこなせれば、都政は今より2倍、3倍は上手に回っていくと思う。そうしたら、東京が日本を引っ張っていけるはずだ」
バナー写真:コロナ対策について記者会見する小池都知事(時事)