コロナ時代の中国習近平外交―対外戦略と国内政策の矛盾

政治・外交 国際

新型コロナウイルスの感染拡大で世界情勢が大きな変化を迎えているなか、中国の積極的な外交戦略が注目を集めている。マスク外交によって存在感をアピールし、日欧に対して懐柔姿勢を示す一方、強硬な姿勢は「戦狼外交」などと呼ばれ、米国をはじめ西側諸国との亀裂を生んでいる。

進む世界の分断と国際秩序の流動化

今の中国は、世界情勢は「百年以来未曾有の大変局」に直面し、国際秩序における米国のリーダーシップが退潮していると認識している。こうした国際認識のもと、国際的な公衆衛生上の脅威に直面している世界で、中国はリーダーシップを発揮しようとしている。

他方、中国政府は自国が厳しい国際情勢に直面しているとも理解している。コロナ禍による中国経済、そして世界経済への打撃、米国が主導するQUAD plus(日米豪印プラス)やグローバルインフラ開発の国際基準を促進するBlue Dot Networkの展開、高まる中国への経済依存への警戒意識など、中国の台頭と経済発展にとって不利な要素が山積している。こうしたなか、中国政府は米中対話、日本などの西側諸国との関係強化、「発展途上国」への影響力拡大を柱とする対外戦略を展開している。

イタリアのほか、スペイン、セルビア、ハンガリーなどの一部の欧州諸国では中国のマスク外交を賞賛する声が上がっている。またコロナとの闘いをめぐる中国の対外支援の重点地域の一つはアフリカであり、「アフリカ大陸は中国のコロナ対策を学ぶべきだ」(※5)と宣伝している。

しかしながらここにきて、国内政策のプライオリティを反映した「統一した声と行動」と国際情勢を考慮した中国の対外戦略との矛盾も露呈し始めている。

主権を重視する中国の動きは米中の分断、そして米国と関係国との関係強化の流れを後押ししている。インドはオーストラリアと軍事基地の相互利用を可能にする軍事協定を締結し、米国がリードするQUAD plusの枠組みなどを積極的に参加する姿勢を見せている。またフィリピンも米国との訪問部隊地位協定(VFA)の廃棄を延期した。他方、昨年から中国を「政治体制の競争相手」と位置付けたEUは、中国の「高まる自己主張(growing assertiveness)」を議論するための会合を米国に持ち掛けている。さらに、新型コロナの起源に関して国際調査を求めたオーストラリアに対して同国の大麦に5年間の反ダンピング課税を課すなど、自国の利益を守ることを目的とした中国の制裁措置が、先進国の対中経済依存の再考を逆に促している。

各省庁や地方政府が自分の利益のために中央の政策を無視して動いた胡錦涛体制下のゆがみを正すために集権体制の強化に舵を切った習近平政権は、対外戦略と国内政策を反映した対外行動とのズレに直面するようになり、世界秩序の流動化と世界の分断をもたらしている。国際関係を重視する動きをとりながら各国との関係を損ねる展開も見せるといった矛盾は集権体制の構造に由来する問題であり、今後も持続するであろう。

バナー写真:香港国家安全維持法成立 「2度目返還」で完全統治  中国全人代の開幕式に臨む習近平国家主席(左下)と香港の林鄭月娥行政長官(上右端)=5月、北京の人民大会堂(共同)

この記事につけられたキーワード

国際政治 香港 中国共産党 香港問題 国家安全法

このシリーズの他の記事