コロナ時代の中国習近平外交―対外戦略と国内政策の矛盾

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青山 瑠妙 【Profile】

新型コロナウイルスの感染拡大で世界情勢が大きな変化を迎えているなか、中国の積極的な外交戦略が注目を集めている。マスク外交によって存在感をアピールし、日欧に対して懐柔姿勢を示す一方、強硬な姿勢は「戦狼外交」などと呼ばれ、米国をはじめ西側諸国との亀裂を生んでいる。

集権体制下の中国国内政策の方向性とその矛盾

胡錦涛体制の下では「政令が中南海から出られない」という言葉があるほど、中央で制定された政策は地方や現場では実施されず、経済の構造改革が実行できない状況が続いた。習近平体制は10年近くの歳月をかけ、外交の分野において「一つの声で」臨む体制を概ね構築することができた。しかしながら集権体制下でも、穏健な対外戦略と、国内政策を反映した強硬な対外行動が矛盾するという問題を抱えているのである。

戦争に直面していないにもかかわらず、習近平政権は中国の安全情勢がますます厳しくなっているとみており、「西側の敵対勢力によるイデオロギーの浸透により、国際レベルにおいては主権、安全、発展利益、国内では政治安全、社会の安定による圧力が強まっている」(※4)と受け止めている。「主権と安全」、「経済発展」、「政治安全」、「社会安定」は中国の国内政策のキーワードとなっている。

尖閣諸島周辺での中国公船の動き、南シナ海での中国の政策、「香港国家安全維持法」制定、そして中印国境での衝突などはすべて中国の主権にかかわる問題であり、「国益の擁護」は習近平体制の下で最重要の政策目標となっている。

2018年にCCTV(中国中央電視台)が製作したドキュメンタリーシリーズ(「すごいね!わが国(厲害了、我的国)」)は中国国内で一世を風靡した。「中国のすごさ」をアピールする内容は習近平体制の愛国主義キャンペーンの主軸であり、政権基盤を固めようとする国内の動きは外交分野でも広がっている。対外的に統一した声、統一した動きが求められるいまの中国の集権体制の下では、自国の政治体制の優位性を示す「中国経験」を広める動きが加速している。

(※4) ^ 「居安思危、共筑国家安全精神長城」『中国国防報』2017年4月12日。

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青山 瑠妙AOYAMA Rumi経歴・執筆一覧を見る

早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授。専門は国際関係論、現代中国外交。1999年慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了。2005年ー2006年、スタンフォード大学客員研究員。2016-2017年、ジョージ・ワシントン大学客員研究員。主な著書に『現代中国の外交』(慶應義塾大学出版会/2007年)、『中国のアジア外交』(東京大学出版会、2013年)、『外交と国際秩序(超大国・中国のゆくえ2)』(東京大学出版会、2015年)、Decoding the Rise of China: Taiwanese and Japanese Perspectives (Palgrave Macmillan, 2018)など

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