コロナ禍を襲った熊本豪雨:“もっこす”ボランティアたちの挑戦-「オンライン」で被災者支援

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熊本県南部を中心に甚大な被害をもたらした「令和2年7月豪雨」は、4日で発生から1カ月。新型コロナウイルスの感染予防を講じながら復興や避難生活を迫られる災害としては国内初だ。県外からボランティアを受け入れず、県内在住者だけで復旧に励んでいる。そこで人手不足を少しでもカバーしようと、「くまもと災害ボランティア団体ネットワーク(KVOAD)」が活用しているのが「オンライン会議」。県内外のボランティア団体、産官学、そして報道機関を結ぶ、ウィズコロナ時代の新たな災害支援方式だ。

被災者のニーズと支援者のシーズを効果的にマッチング

毎日夜6時になると、被災地での作業を終えたボランティアに加え、熊本県や内閣府、環境省などの行政担当者、全国のNPO・NGOスタッフ、約40人がパソコンの前に待機する。参加者全員のあいさつが済むと、各団体の現状報告が始まる。

「球磨村の小中学校が8月3日から授業を再開するが、学用品が不足している。すぐにそろえられないだろうか」と、ある団体が呼びかけると「当たってみましょう」との返答。翌日、問題は解決していた。

個人有志の参加もウエルカムだ。ある日、熊本県庁の職員が飛び入り参加した。「パソコンのスキルがあるので、水没したパソコンからのデータの抜き取りを引き受けます。夜と休日にしかできないので時間はかかりますが頑張ります!」。すると会議の主宰者が「抜き出したデータを中古パソコンに入れて、本人に寄贈したらどうだろう」と提案。さっそくIT専門のボランティア団体とのコラボレーションが誕生した。

90分間の会議で取り上げられる話題は、被災住宅の泥出しや床剥がし、被災ゴミの相談から、飲用水、レンタカー、電動自転車、エアコン、Wi-Fiルーターなど被災現場から上がったさまざまな要望にきめ細かく応じている。

大破した乗用車、芦北町にて(KVOAD提供)
大破した乗用車、芦北町にて(KVOAD提供)

「100年に一度」の形容詞が毎年飛び交う近年の自然災害。今日の災害支援活動に欠かせないのが、ニーズ(被災者が必要とする物・サービス)とシーズ(支援者が持っている物資・サービス・人材)をマッチングさせる「中間支援」だ。KVOADは2016年熊本地震の際に設立され、以来、県内外のボランティア団体のハブ機能を果たしてきた。

熊本地震で痛感した「中間支援」組織の重要性

KVOAD代表理事の樋口務さん(59歳)は大分県日田市生まれ。熊本市内の建設コンサルタント会社でエンジニアとして働くうちに、環境アセスメントを通して住民保護活動に目覚める。「NPOくまもと」に所属してNPOのコーディネートやボランティアの育成に取り組み、さらに脱サラして社会福祉法人を立ち上げて保育所の運営を始めた矢先に、熊本地震が発生した。

「熊本地震・支援団体“火の国会議”」を結成して、「全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)」事務局長の明城徹也さんの助言を受けながら被災地を回り、県内全118の避難所の環境改善を進めるうちに、熊本県にも独自の中間支援組織が必要であることに気付く。

「復興支援が始まって2カ月ほどすると、ピーク時には250団体ほどあった全国のボランティア団体の数が減り始めた。ちょうどその時、北海道函館市で震度6弱の地震が発生。県外支援者にいつまでも頼っていてはいけないと思った」と樋口さんはKVOAD立ち上げの経緯を語る。

週2回のペースで、県総合福祉センターで開いてきた「火の国会議」だが、コロナ対策のためオンライン会議に変更。「もし今、災害が起きたら大変なことになる」と皆で話していた矢先の今回の豪雨だった。

増水する球磨川、人吉市にて(時事通信)
増水する球磨川、人吉市にて(時事通信)

KVOADの対応は早かった。7月7日には県、全国のNPO・NGOが参加した「火の国会議 令和2年7月豪雨版」が発足。以来、国や研究機関、マスメディアまで参加者を広げながら、毎晩欠かさず開催されてきた。

救援物資だけではなく被災者の心のケアも

オンライン会議を始めてみて、“オフライン”にはない利点に気づいたという。ニーズ、シーズのマッチングにかかる時間が短縮されるほか、全国の人とリアルタイムで情報を共有でき、アドバイスのやり取りもできる。被災地からの移動中にスマートフォンで参加することも可能だ。途中入場や途中退席もしやすい。お互いの顔が分かるように、毎回、参加者全員が冒頭で自己紹介や活動報告をする。パソコン画面上には議事録がリアルタイムで打ち込まれ、ホームページに日付別に保管される。

被災者に必要なのは救援物資だけではない。メンタルヘルスといった精神的なケアサービスも大切だ。

熊本市のNPO「傾聴ネットキーステーション」では、高齢者・障害者をはじめ地域住民に傾聴ボランティア・認知症予防ボランティアを行っている。だが、コロナ禍の今、避難所内に入ることは難しい。そこで「オンラインで話を聴けるようにトライしたい」と伝えると、「弁護士会もオンライン法律相談会の計画を立てているのでコラボしてみたらどうか。Wi-Fiなどの通信機器を提供する団体も紹介します」とのアドバイスが届く。

また、「災害ボランティアの事前説明会では女子高生の希望者が多いが、自分たちが役に立つのか、足手まといにはならないかと、ちゅうちょしている」との相談には、「岡山NPOセンター」の代表者から「2018年倉敷水害の時に知ったが、被災者は心にも傷を負っている。高齢者にとって、若い人と話すことや女性の気遣いは心のケアになる」と励ましの声が飛ぶ。

復旧に必要な力仕事など「マンパワーという点では熊本地震の際と比べると足らないものの、今のところ善戦しているのではないか」と樋口さんは、この1カ月の活動を振り返る。

高まる県外ボランティアからの被災地入りの要請

だが、その一方で、被災地入りを熱望する県外ボランティアは多い。熊本地震ではボランティアの約8割が県外在住者で、支援の大きな力となった。7月25日には緊急シンポジウムをオンラインで開催し、県外ボランティアの受け入れを訴えた。

球磨川氾濫で浸水した住宅地の片づけをするボランティアたち、人吉市にて(時事通信)
球磨川氾濫で浸水した住宅地の片づけをするボランティアたち、人吉市にて(時事通信)

シンポジウムの中で、危機管理教育研究所代表の国崎信江さんは、「これまで様々な被災地に行ったが、今回は明らかにボランティアの数が足りていない。PCR検査で陰性の結果が出た方を受け入れる以外、解決策はないのではないか」と主張。助けあいジャパン共同代表理事の石川淳哉さんは、「熊本地震では、直接死50人に対して災害関連死(災害による負傷の悪化や避難生活における身体的負担による疾病がもたらした死)が220人。今回の豪雨では、直接死は50人をはるかに超えており、このまま十分な支援ができないと、災害関連死は熊本地震時を大きく上回る恐れがある」と危惧する。

ただ、KVOAD側もやみくもに県外ボランティアを避けているわけではない。いわゆる「プロボラ」と呼ばれる、重機関係などプロフェッショナルな技術と経験が必要とされる分野に関しては、被災自治体から要請があった場合、参加を認めており、7月下旬から2団体が活動している。だが、一般ボランティアに関しては、コロナが収束するまでは県内在住者だけに限定する。それは「PCR検査は100%ではない。被災者やボランティアたちの中に感染者を絶対に出してはならない」という思いからだ。

7月29日、熊本日日新聞が県民に対して実施したアンケート調査の結果が公表された。それによると、「ボランティアの受け入れを県内在住者に限定した方がいい」とする人は7割、被災者に限ると8割に達した。人手不足による復旧作業の遅れよりも感染リスクへの不安がより大きいことが裏付けられた形だ。

災害ボランティアの在り方を考え直す契機に

「今回の豪雨災害は、災害ボランティアについて一から考え直す機会を与えてくれた」と樋口さんは言う。

熊本豪雨に続いて山形県でも記録的な大雨に見舞われ、最上川が氾濫した。8月に入り台風シーズンを迎え、全国各地で豪雨被害が懸念される。
「仮に南海トラフ地震が起きたら、関東から九州までが被災する。皆が動けない状況の中で、どうやって対処すればよいのか。今回の豪雨は、その警鐘と受け止めたい」

「できたしこ」という熊本弁がある。「できる分だけやろうよ」という意味だ。コロナは劇的に収束することはないし、今後数年は続く。復興作業も長丁場になる。
「無理をすると長続きしないもの。支援する側も100%の力で1年も2年もできっこない。週1回、いや月1回でもいい。大事なのは継続すること。それができるかどうかで地域の力が試される」

8月第2週からは、定期的に被災現場や避難所からもオンライン会議をする予定だ。
「現場の生の声、情報や課題を伝えたい。火の国会議は完全オープン、被災地のいまをぜひ見てください」と樋口さんは呼びかけている。

バナー写真:真剣な討議の中にも、穏やかな雰囲気でオンライン会議は進む=KVOAD提供

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