「弁証法的発展」の発想なき中国の香港政策

国際 政治・外交

香港に対する国家安全維持法が全人代で可決され、実施が決まった。香港問題は米中新冷戦のフロントラインになりつつある。香港に対する中国の過剰な強硬姿勢は、香港の良さを失わせる「愚策」ではないのか。香港と中国との違いに基づき、香港社会にも受け入れ可能な香港政策を作り出す「弁証法的発展」の成果でもあった「一国二制度」は、返還から23年目に入ったいま、大きな岐路に立たされている。中国の成長を支えた香港を強引に変化させることは、中国自身の「凋落の第一歩」を意味する恐れもある。

弁証法的発展の発想なき中国の指導者

今の中国政治指導者には共産主義者がよく用いていた弁証法的発展という考え方が身についていないようだ。ただ圧倒的に強い力関係にあるとき、単純に強行政策をとって力ずくで自らの意思を相手に押し付けるのはいかがなものか。弁証法的発展とは、自分たちの意思や行動に対する反作用の効能もよく計算に入れながら、その先に生まれる新しい関係性を戦略的に考える、いわゆる正→反→合という考え方である。

「一国二制度」をどのようにして香港住民も納得できる制度にすることができるのか。これを香港市民や当局者などを巻き込んで本格的に討議するならば、「弁証法的発展」の成果が出てくるかもしれない。

今回の米中の対立はそもそもそれほどイデオロギー性の強いものではなく、超大国の座を目指すイニシアティブの争いと言えるものでもある。したがってイデオロギー、政治・経済体制、陣営などで争った「米ソ冷戦」とは異なる面が多い。イニシアティブの調整さえうまくできれば、――難しいことではあるが――、米中共存は可能である。そしてその道を探ることと香港「一国二制度」の再生は連動しているのである。

バナー写真:国家安全維持法案が可決した当日、朝の香港風景。( © Chan Long Hei/SOPA Images via ZUMA Wire/共同通信イメージズ)

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