「弁証法的発展」の発想なき中国の香港政策

国際 政治・外交

香港に対する国家安全維持法が全人代で可決され、実施が決まった。香港問題は米中新冷戦のフロントラインになりつつある。香港に対する中国の過剰な強硬姿勢は、香港の良さを失わせる「愚策」ではないのか。香港と中国との違いに基づき、香港社会にも受け入れ可能な香港政策を作り出す「弁証法的発展」の成果でもあった「一国二制度」は、返還から23年目に入ったいま、大きな岐路に立たされている。中国の成長を支えた香港を強引に変化させることは、中国自身の「凋落の第一歩」を意味する恐れもある。

米議会に広がる香港支援

たしかに力関係では圧倒的に北京が強く、香港は歯がたたない。雨傘運動の抵抗、昨年の逃亡犯条例改正の拒否、そして昨年11月末の区議会議員選挙における香港市民の圧勝、それにもかかわらず強大な組織力と経済力を擁した中央権力の壁は動かし難く、香港の人々に深い挫折感をもたらしつつあるのかもしれない。

しかし、考えてみれば、香港は1997年以来じわじわと中央政府の支配が強化されていき、それに抵抗する香港の住民は様々な形の運動を展開してきた。それは人々が知恵を絞りだした創造的な運動であった。そして今こうした香港で生まれた小さな炎が、世界各地に飛び火し始めている。

かつて米国は民主と自由のチャンピオンであり、守護者であったが、現在のトランプ政権にそのような役割を期待することはできない。

しかし、議会や市民運動を巻き込みながら、香港を支援する新たな動きが生まれ始めている。2019年6月に米国議会が可決した「香港人権民主主義法」然り、同年9月にペロシ下院議長が香港民主派の3人のリーダーと行った共同会見、2020年3月にはかつての香港政府ナンバー2のアンソン・チャンがペンス副大統領と、5月には香港民主党創始者マーティン・リーがポンペイオ国務長官とペロシ下院議長とそれぞれワシントンで会見するなど、交流の動きが目立ってきた。米国は、中国が統制を強める香港への海底ケーブルの接続に反対するようになった。ファーウエイ事件に続く米中のデカップリング(分断)である。

台湾などでも香港との連携

台湾では、これまで香港とはあまり深いつながりがなかったと言われてきたが、雨傘運動、ひまわり運動などで学生・青年活動家同士の交流が活発化し、さらに市民運動、ジャーナリズムの連携が見られるようになった。

豪州、ドイツ・英国・フランスなどでも中国の対応に批判的な主張が強まってきた。6月22日に開かれたEU・中国のテレビ電話での首脳会議でも、米国との対立激化に対応してEUを味方につけようとする中国の思惑から外れ、EU側から「香港国家安全法」に対する重大な懸念、採択停止の要望が表明された。日本でも国会議員の連携や知識人、市民の支援活動の広がりが伝えられるようになってきた。世界各国の政府、議会、市民の活動は今後一段と活発になっていくことだろう。

こうした中で、中国にとってどのような選択が望ましいのだろうか。私は強硬で突っ走るだけの外交は愚策だと思う。さらには中国共産党のために貢献する香港こそ評価するとするならば、多くの香港人も世界もついていかなくなるだろう。自由で闊達で繁栄した従来の香港に貢献する中国共産党こそが、香港人が求めているものであり、そのような実感を得られるようになるなら、香港人の嫌中的なわだかまりを薄めていけるのではないだろうか。

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