コロナ禍の今だからこそ注目したい台湾の公園革命——みんなで育てる公共空間

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中村 加代子 【Profile】

新型コロナウイルスの登場で、感染リスクが比較的低いとされる屋外の公園が、新しいレジャーのパートナーとなりそうだ。お隣の台湾では、近年、ユニークな公園が続々と誕生している。子どもから大人まで引きつけるその魅力は何か、また、なぜそのような公園を生み出せたのか、台湾の事例から、コロナ禍における公共空間の在り方を探る。

我が町にも公園を。里長の秘策は

台北市は2021年中にインクルーシブ遊戯場を59、特色公園を39まで増やす計画だ。隣接する新北市も、この動きに追随。台北市を凌駕(りょうが)するスピードで、次々に公園を整備している。

台北市が既存の公園をリニューアルしているのに対し、新北市には新しくつくられた公園も多い。陶器の街として知られる鶯歌の、駅の南東側に位置する東鶯里には、公園がなかった。あるのは何十年も前に「公園予定地」に指定された土地だけ。それも2、30名の地権者に権利が分散していて、すべて買い戻すにはまとまった資金が必要だった。 

そこで東鶯里の里長(※2)を務める陳陸賀さんは、「容積移転」という制度を利用することにした。

まず、各地権者に「公園をつくりたいから土地を売ってほしい」と数年をかけてお願いに回った。土地を買うのは、里でも市でもなく、ゼネコンだ。ゼネコンは土地を全て買うと、市に譲渡する。その代わり、提供した土地の広さに応じた容積率を、別の場所で建設するビルやマンションに移転し、より高層化できるのだ。

これで市は懐を痛めずに公園予定地の所有権を得、ゼネコンは別のところで利益を出せる。そして里は新しい公園を手に入れることができるというわけだ。この容積移転という仕組みは、歴史的建造物の保存にも活用されている。

実は日本にも、同じような「空中権の移転」制度がある。東京駅丸の内駅舎の復元工事を行った際、500億円にのぼる改修費用を、周辺のビルに空中権を売却することで賄(まかな)ったという話は、よく知られている。

こうして2019年3月、東鶯里に初めての公園が誕生。日本統治時代、この場所に火事を知らせるための鐘楼があったことにちなみ、「古鐘楼公園」と名づけられた。すべり台は在りし日の鐘楼に似せてつくられ、消防隊をモチーフにした遊具も設けられた。陳里長は「物語のある公園にしたかった」と語る。

古鐘楼公園のすべり台は日本統治時代の鐘楼がモチーフ。鐘楼の再建計画も練られている(筆者撮影)
古鐘楼公園のすべり台は日本統治時代の鐘楼がモチーフ。鐘楼の再建計画も練られている(筆者撮影)

火事と消防隊をイメージしたデザインが施された古鐘楼公園の遊具(筆者撮影)
火事と消防隊をイメージしたデザインが施された古鐘楼公園の遊具(筆者撮影)

(※2) ^ 里は市・区・鎮の下位に属す行政区分。里長は4年に一度の選挙で選ばれる

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ライター、翻訳者。東京生まれ。台湾人の母と、台湾人と日本人の間に生まれた父を持つ。谷中・根津・千駄木界隈の本好きの集まり「不忍ブックストリート」実行委員。台湾の本に関する情報を日本に発信するユニット「太台本屋tai-tai books」メンバー。訳書に『台湾レトロ氷菓店』がある。

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