「冗談だよ!」って笑って戻ってきて : 天才・志村けんが台湾にもたらした「娯楽」以上のもの

エンタメ 社会 国際 医療・健康

志村けんさんが出演していた『8時だョ! 全員集合』は、台湾人にとっても懐かしい記憶だ。当時、台湾でのテレビ放送はなかったが、海賊版ビデオとなって台湾の家庭に浸透していた。志村けんさんは台湾でも、みんなが知っている人気コメディアンだった。

世代のギャップを埋めた『全員集合』

しかし、家族で『全員集合』を見るときは、両親は青春時代に返ったかのように夢中になり、小・中学生時代の私は、番組を見ているうちに、日本人の印象が抗日映画の悪者から、面白いコントで笑いを取るコメディアンに変わっていった。

『全員集合』が私たち親子にもたらしたのは娯楽だけではなかった。親にとっては、幼少期から親しみ、心の中にしまっていた日本語がよみがえるトリガーとなり、子供にとっては当時の国民党政権よって作り出された日本のイメージが崩れるきっかけとなったのだ。番組を制作したTBSやドリフターズのメンバーは、まさか海を隔てた台湾で番組がこんなに大きな影響を与えていたなんて思いもしなかっただろう。

『全員集合』には、たびたび際どい場面が登場する。家族で見ているときに、出演者同士が板でたたき合ったり、志村さんが女性を下品な言葉でからかったりするシーンがあると、家の中には気まずい空気が流れた。両親は日本人の礼儀正しさに尊敬の念を抱いている世代なのに、「礼儀正しい」とはかけ離れた場面が流れると、両親は「日本人は『有礼無体』だから……」と、言い訳するかのように話すしかなかった。有礼無体とは台湾で日本人の国民性を表現するときに使われる言葉で「礼儀正しい面もあるが、温泉などで全裸になるなど台湾人が恥と思うことを平気ですることもある」といった意味合いである。

台湾でも、日本のお笑い番組が子供の教育によろしくないという声もあったようだ。しかし、その内容は大人も腹を抱えて笑うほど面白く、「教育のことは番組を見終わってからにしよう!」と思わせるほどだったと言える。

あの頃、私はいつも袋小路を抜けたところにある大通りのレンタルビデオ店に行っていた。会員になると、店名が入った手提げ袋をプレゼントしてくれた。そして確か会費を払うと、赤いスポーツカー型のテープ巻き取り機ももらえたと記憶している。当時、私がよく借りたのは『全員集合』、刑事ドラマの『Gメン』シリーズも外せないお気に入りだった。ビデオのコピー方法はいい加減なもので、テープに何度も上から録画して再利用をしていたようだ。前に録画したものが消去されていないので、目当ての番組の前後に時代劇や年齢制限がある映像が入っていることもあった。

次ページ: 抱腹絶倒のコントと新鮮な演出

この記事につけられたキーワード

台湾 新型コロナウイルス 志村けん

このシリーズの他の記事