蔡英文二期目の任務:アフターコロナの経済・国際関係でブレークスルーを

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鄭 仲嵐 【Profile】

5月20日、台湾蔡英文総統は正式に政権の二期目をスタートさせた。過去4年間の実績を振り返りつつ、将来の4年を考えた際、「台湾主権独立」から「台湾の利益を守る」ことに立場を転換したことで、中台関係では中国のボトムラインに挑戦しない立場を守るだろう。また、アフターコロナの世界では、いかに台湾の経済を立て直し、内政を強化して国内産業を活性化するかも重要だ。日本との関係では、中国との摩擦回避のため、引き続き民間での交流を促進するだろう。

日本との関係について

最後は日本との関係だ。台湾は一貫して親日的な国であり、過去4年間も日台関係は安定していた。大使館に相当する台北の交流協会の「日本台湾交流協会」への名称変更も関係向上への一歩となった。ただ、現実には福島とその周辺5県に対する食品輸入の開放という重要問題について、4年間で進展はなかった。

2019年5月、筆者は柯文哲台北市長と一緒に東北地方を訪問し、福島や岩手、宮城県に立ち寄り、東日本大震災から復興状況を見て回る機会があった。当時の柯文哲市長は自民党の萩生田光幹事長代理(現文部科学大臣)と東京で面会し、メディアに対して、「日本は本当に食品開放問題を気にしている」と語った。

日本側は、食品開放問題は科学的な問題だと認識しているが、台湾ではなお政治問題である。科学的な検査に基づいて開放したとしても、民進党は台湾で「媚日」のレッテルを貼られるだろう。親中派や中国政府にナショナリズム的な批判の宣伝材料にされてしまう。加えて、民進党は過去4年間、親米、親EUの路線を取ってきたが、以後4年間は中国をとにかく刺激をしない中で、日台関係は民間交流を中心に政治的色彩を弱めて関係強化をしていかなくてはならない。

過去4年間の執政期間で、蔡英文総統の声望の起伏は非常に激しいものだった。基本的に、総統再選を決めた2019年1月より前の蔡英文と後の蔡英文は、まったく異なる個性を持った指導者のように見える。前の蔡英文は決断力がないが、後の蔡英文はブレなくしっかりとしている。これらは、彼女の目の輝きからも見て取れる。未来の4年間、蔡英文総統は台湾の民衆を安心させるため、いかに国際社会における中国の介入を切り抜けていくのか、期待せずにはいられない。

2016年5月20日、蔡英文総統が総統就任演説の場で「92年コンセンサスが歴史的事実であることを尊重する」という言葉を語ったことについて、中国は「未完成の回答だ」と批判した。2020年5月20日の再任においては、世界が中国の新型コロナに対する疑問の目を向けており、今度は中国が自ら多くの問題に答えなくてはならない。ただ、国際情勢はなお混沌(こんとん)としており、台湾は楽観論に甘えることはできない。瞬時に多くの変化が生じる今の時代に、蔡英文・民進党政権はいかなる問題にも臨機応変に立ち向かうべきである。

蔡英文総統と新任の頼清徳副総統(中華民国総統府提供)
蔡英文総統と新任の頼清徳副総統(中華民国総統府提供)

バナー写真=総統就任式に臨む蔡英文総統と閣僚ら、2020年5月20日、台湾台北(中華民国総統府提供)

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ニッポンドットコム海外発信部スタッフライター・編集者。1985年台湾台北市に生まれ、英ロンドン大学東洋アフリカ研究学院卒。在学中に福岡に留学した。音楽鑑賞(ロックやフェス)とスポーツ観戦が趣味。台湾のテレビ局で働いた経験があり、現在もBBC、DW中国語や鳴人堂などの台湾メディアで記事を執筆。著書に『Au オードリー・タン天才IT相7つの顔』(2020,文藝春秋)、『追尋岡村俊昭』(2024,台湾大塊文化)。インディーズバンド『The Seven Joy』のギタリストとして作曲と作詞を担当している。

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