蔡英文二期目の任務:アフターコロナの経済・国際関係でブレークスルーを

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鄭 仲嵐 【Profile】

5月20日、台湾蔡英文総統は正式に政権の二期目をスタートさせた。過去4年間の実績を振り返りつつ、将来の4年を考えた際、「台湾主権独立」から「台湾の利益を守る」ことに立場を転換したことで、中台関係では中国のボトムラインに挑戦しない立場を守るだろう。また、アフターコロナの世界では、いかに台湾の経済を立て直し、内政を強化して国内産業を活性化するかも重要だ。日本との関係では、中国との摩擦回避のため、引き続き民間での交流を促進するだろう。

経済と内政の再調整

台湾内部の経済再調整の問題もある。新型コロナの状況が緩和に向かう中、蔡英文・民進党政府は悪化する経済から抜け出さなければならない。世界的に観光業や中小企業へのダメージは前例のないものだ。各国の空港も事実上閉鎖されている。台湾も同様で、感染状況は深刻ではないが、観光業はまずは国内観光から復旧させていくしかない。

ただ、世界の観光客を失うことは、国内観光産業の上昇につなげる機会にもなる。台湾観光はもともと海外客に依存しすぎていると目されていた。特に中国人観光客の大量流入で、ファストフード型の消費傾向が強くなり、特定の業者に牛耳られていることもあって、内需への影響も小さかった。台湾人は格安航空会社で日本、韓国、東南アジアに行くので、国内旅行消費は割に合わないと考えられてきた。

今日の国内観光業は日本から学んでしっかりとした観光業の確立を進めながら、伝統的な屋台市場での小皿料理などの衛生環境も整えれば、将来復活した後の海外観光客に対して、さらに良好な台湾旅行体験を提供できるだろう。

日本人が一人当たり10万円の特別定額給付金を提供したように、台湾も一人あたり1万台湾ドルの支援金を出している。しかし、一部で抗議が上がっているように手続きが複雑で時間がかかり過ぎるなどの問題がある。いかに公平なサポートを国民に与えられるかは各国でも議論の焦点になっている。蔡英文政府は未来の4年間、台湾社会の福利政策をさらに強化し、リモート教育などにも力を入れなければならない。

現在の蔡英文総統の支持率は高いが、台湾の民意の流動性は高く、はっきり言えば、利益誘導にも引き寄せられやすい。2018年11月24日の統一地方選の大敗後、蔡英文政府の支持は谷底に落ちて、「株価」が下げ止まって再上昇したと言えるだろう。今後の内政でトラブルが続き、地方の政治家が人心を失い、世論調査の結果にあぐらをかけば、想像を超えた反発を招くかもしれない。

就任式で演説を行う蔡英文総統(中華民国総統府提供)
就任式で演説を行う蔡英文総統(中華民国総統府提供)

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ニッポンドットコム海外発信部スタッフライター・編集者。1985年台湾台北市に生まれ、英ロンドン大学東洋アフリカ研究学院卒。在学中に福岡に留学した。音楽鑑賞(ロックやフェス)とスポーツ観戦が趣味。台湾のテレビ局で働いた経験があり、現在もBBC、DW中国語や鳴人堂などの台湾メディアで記事を執筆。著書に『Au オードリー・タン天才IT相7つの顔』(2020,文藝春秋)、『追尋岡村俊昭』(2024,台湾大塊文化)。インディーズバンド『The Seven Joy』のギタリストとして作曲と作詞を担当している。

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