蔡英文二期目の任務:アフターコロナの経済・国際関係でブレークスルーを

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鄭 仲嵐 【Profile】

5月20日、台湾蔡英文総統は正式に政権の二期目をスタートさせた。過去4年間の実績を振り返りつつ、将来の4年を考えた際、「台湾主権独立」から「台湾の利益を守る」ことに立場を転換したことで、中台関係では中国のボトムラインに挑戦しない立場を守るだろう。また、アフターコロナの世界では、いかに台湾の経済を立て直し、内政を強化して国内産業を活性化するかも重要だ。日本との関係では、中国との摩擦回避のため、引き続き民間での交流を促進するだろう。

台湾利益を守る外交

悪化している中台関係については、民進党は長い間、中国から台湾独立派と見なされ、受け身に立たされ、2018年の地方選挙で国民党の捲土重来を許した。しかし、香港での抗議デモの激化によって台湾社会での対中警戒感が高まると、民進党は大幅に戦略を調整した。過去の台湾のように「統一か独立か」の争いに陥ることを回避し、「台湾の利益を守る」という立場に切り替えたのである。

民進党は、過去の「台湾主権独立」を「台湾の利益を守る」に転換することで世論戦の戦い方が相当に明確になった。台湾の統一か独立かという問題について、人々の意見はかなり異なっているかもしれないが、台湾の利益を守るということについては、いかなる台湾人でも反対はしない。これにより、香港の抗議デモと中国のアフリカ豚コレラの発生後、大部分の台湾民衆は中国共産党の脅威を強く認識し、民進党の支持率も向上するなど、総統選挙に大きな影響を与えたのである。

その後、新型コロナが世界を席巻することで多くの国々の政治および経済の利益が損なわれた。中国が発生地と思われる新型コロナウイルスの起源は、科学的に検証されるべきで、政治化されるべきではない。しかし、中国の当初の政治的な動きが感染をまん延させ、WHOを操作して全世界をミスリードし、多くの国が中国共産党に疑問を抱く事態となった。台湾は国家利益の保護を出発点にして、現時点で感染者440人、死者7人に抑え込み、他の国々との違いは明らかだ。

台湾が新型コロナの感染に対応して「国家利益を守る」ことの世界的なモデルになったため、今後の4年間の中台関係は、米中関係におけるアジェンダとなった。蔡英文の二期目は、中国のボトムラインに挑戦しないという立場を守るだろう。これは台湾の利益を守ることだけでなく、中国に利用されないことにつながる。なぜなら、中国は政治的に不安定な状況を作り出すことで、台湾の指導者を惑わし、台湾社会に不安を与えたいからだ。もともと韓國瑜・高雄市長がその役割を果たすはずだったが、成功しなかった。

野党国民党は「92年コンセンサス」以外、中台関係の新しい主張を作り出すことができていない。未来の国民党が、92年コンセンサスが台湾の利益を守ことになると強弁すれば、次第に台湾社会の世論に「台湾の利益を売り渡している」と受け止められかねない状況に追い込まれることも自然の流れであろう。過去、中国の外交的な包囲網に苦しめられた民進党も、今後4年間はウェブの力で対外アピールを行い、アフターコロナ時代の健康問題をテーマに、国際社会で台湾への信頼を高められる。

就任式で宣誓を行う蔡英文総統(中華民国総統府提供)
就任式で宣誓を行う蔡英文総統(中華民国総統府提供)

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ニッポンドットコム海外発信部スタッフライター・編集者。1985年台湾台北市に生まれ、英ロンドン大学東洋アフリカ研究学院卒。在学中に福岡に留学した。音楽鑑賞(ロックやフェス)とスポーツ観戦が趣味。台湾のテレビ局で働いた経験があり、現在もBBC、DW中国語や鳴人堂などの台湾メディアで記事を執筆。著書に『Au オードリー・タン天才IT相7つの顔』(2020,文藝春秋)、『追尋岡村俊昭』(2024,台湾大塊文化)。インディーズバンド『The Seven Joy』のギタリストとして作曲と作詞を担当している。

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