新型コロナ問題で台湾が教えてくれたこと―マイノリティーへの向き合い方でその国が真の「先進国」かどうかが決まる

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世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルスについて、台湾は徹底的な水際・封じ込め対策で成功している。感染対策がうまくいった背景に、筆者は台湾が歩んできた歴史の全てが生かされた結果だと考える。特にマイノリティーやジェンダー、社会的弱者への向き合い方に表れており、学ぶべきところが多い。

マイノリティーへの「自分ごと」という向き合い方

台湾のモットーとは何だろうか?それはWHOのテドロス事務局長が「台湾からの人種差別攻撃を受けている」と台湾を非難した際に、蔡英文総統が応じた「台湾は長年国際社会から排除され、孤立する意味をよく知っている。台湾はいかなる差別にも反対する。台湾の持つ価値観は自由、民主、多様性、寛容である。テドロス事務局長を台湾へ招待したい。そうすれば我々の努力が分かるだろう」(筆者簡訳)という品格ある反論に、端的に示されている。

台湾がこうした価値観を獲得するまでの道のりは、長く険しい。50年間の日本植民地時代を経て、1945年を境に中華民国国民党の統治下に置かれた台湾では、二二八事件をきっかけに戒厳令が敷かれ、無実の人々が政治弾圧のために拘束・処刑される「白色テロ」の時代を経た。その後、1980年代に盛り上がった民主化運動を受けて1987年に戒厳令が解除され、1996年の総統の直接選挙につながった。「台湾人の台湾人による自決権」が、ついに実現される。

3度の政権交代を経験した台湾で育まれたのは投票による「チェック機能」だった。選ばれたリーダーが権力を悪用したり落ち度があったりしたと感じれば、台湾の有権者は大規模なデモを行い、糾弾し、投票で政権から容赦なく引きずり下ろした。

民主化と共に爆発的に盛り上がったのは、長年抑圧されて来た女性や先住民族、性的少数者(LGBTQ)などのマイノリティー権利運動である。2005年には憲法で立法委員(国会議員)の女性議員の比率にクオータ制(※定数の約3割を占める比例代表において、各政党は半数以上を女性にしなくてはならない)を導入し、女性議員の比率を高めた。また近年の先住民族運動における掛け声「部外者はいない(没有局外人)」にも顕著なように、あらゆる災禍や不平等を「自分ごと」としてとらえ、寄り添い、手助けしようとする気持ちも育まれた。これは、2011年東日本大地震の際に日本に贈られた莫大な義援金にも表れている。

2019年にはアジアで初めて同性婚が法律で認められ、男女格差を表すジェンダーギャップ指数は、世界9位である(日本は121位)。

さらに今年1月の総統選で、蔡英文政権を再選へと導いた大きな「自分ごと」があった。2019年の香港デモである。中国政府による、香港はじめウイグル・チベットへの弾圧、情報統制や人権侵害を真近で目撃してきた台湾は、いま手にしているリベラルな価値観が経済的豊さと引き換えにできないことを認識し、自らの台湾アイデンティティーにその意識を同化させたのだと思う。

つまり、今回のコロナ禍が問うているのは、その共同体が常に価値観をアップデートさせてきたかどうか、なのだ。例えば台湾・ニュージーランド・ドイツなど、今回のコロナ対策で死者を比較的低く抑えている国の共通点は女性がトップという話がある。

ここから導き出される答えは、女性が優秀であるといった話ではないだろう。女性がリーダーになれる国では、伝統的なジェンダーや慣習よりも実力や新しい発想が重んじられ、マイノリティーが重視され、柔軟に社会が変わってきたのだと思う。マスクアプリ開発で日本でも一躍有名になった天才IT担当閣僚オードリー・タン(唐鳳)氏の起用も、そうした例のひとつだろう。こうした国々が今、さまざまな先進的な施策によって世界を引っ張っている。

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