新型コロナ問題で台湾が教えてくれたこと―マイノリティーへの向き合い方でその国が真の「先進国」かどうかが決まる

社会 暮らし

栖来 ひかり 【Profile】

世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルスについて、台湾は徹底的な水際・封じ込め対策で成功している。感染対策がうまくいった背景に、筆者は台湾が歩んできた歴史の全てが生かされた結果だと考える。特にマイノリティーやジェンダー、社会的弱者への向き合い方に表れており、学ぶべきところが多い。

歴史の全てが今回の対策に生かされている

しかし台湾では今のところ、比較的平等に誰もが守られていると感じる。マスク一つ取っても、老いも若きも富めるものにも貧しきものも、皆にサージカル・マスクが行きわるようになった。

夜市や屋台も営業している。公立の美術館や博物館は、消毒や入場制限をしつつ開館を続ける。子供たちも、毎日元気に学校へ通っている。経済格差や家庭環境の影響が特に大きいのが教育だ。もし学校に通えずホームスクーリングになった場合、オンライン環境や学習意欲の差は子供の将来に関わるだろう。また台湾では、2019年に合計160,944件の家庭内暴力(DV)が報告されており、その中でも児童虐待は20,989件を占める。もし学校がなければ、少なくない数の子供たちが始終、虐待の危険にさらされることになる。

徹底的な水際・封じ込め対策を行ってきた台湾で暮らして分かったのは、今回のように感染症などが流行した場合、できるだけ早い封じ込めを目指しながら、情報をオープンにして共同体全体と信頼関係を築くことの重要性だ。最初は社会的コストがかなり予想されるとはいえ、先延ばしにして都市がロックダウンすることになった場合のダメージは計り知れない。またそのおかげで、マイノリティーであっても生存を脅かされずに済む。

世界で今回のコロナ対策における台湾の評価はうなぎ登りである。従来の中国との緊張関係によりWHO(世界保健機関)を過信せず独自の対策を講じたことや、SARS(重症急性呼吸器症候群)の経験、論功行賞にとらわれず実力に応じて専門家を閣僚に任じ尊重してきたことが、多くのメディアや論者によって指摘されている。どの理由もその通りだと思う。しかし、根本的な理由はもっと深いところにあるのではないかと感じる。簡単に言えば、台湾がたどってきた歴史の全てが、今回生かされている、というものだ。

次ページ: マイノリティーへの「自分ごと」という向き合い方

この記事につけられたキーワード

台湾 LGBT マイノリティー SARS 防疫 新型コロナウイルス

栖来 ひかりSUMIKI Hikari経歴・執筆一覧を見る

台湾在住ライター。1976年生まれ、山口県出身。京都市立芸術大学美術学部卒。2006年より台湾在住。台湾に暮らす日日旅の如く新鮮なまなざしを持って、失われていく風景や忘れられた記憶を見つめ、掘り起こし、重層的な台湾の魅力を伝える。著書に『台湾と山口をつなぐ旅』(2017年、西日本出版社)、『時をかける台湾Y字路~記憶のワンダーランドへようこそ』(2019年、図書出版ヘウレーカ)、台日萬華鏡(2021年、玉山社)。 個人ブログ:『台北歳時記~taipei story

このシリーズの他の記事