あなたが私を外人と呼ぶ前に

社会

差別用語になり得る言葉を全部禁止すれば差別がなくなるわけではないし、逆に、何ら差別的な意図がなくても、単に知識がないため差別用語を使ってしまうケースもある ―― 日本語で創作活動する台湾人作家・李琴峰が「外人」という言葉を深く深く掘り下げて考えた。

2種類の差別用語

現代で差別用語や侮蔑用語とされている言葉は、大雑把に言えば2種類に分けられると考えられる(実際にはどちらにも分類し難いグレイゾーンもあるだろうが)。

一つは、歴史的に確かに差別語や侮蔑語として機能していたし、今でも言葉の字面からはっきりマイナスな意味が読み取れるような類である。表意文字である漢字を使う日本語と中国語では、この類の言葉がたくさん思い浮かぶ。

かつて中国が東アジアの覇権を握っていた時代、自らを世界の中心と目し、周辺の国々を文化的後進国と見なしていた。自分たちが「中国」「華夏」「天朝」「礼楽之邦」であるのに対し、周辺の国々を「蛮夷」「化外之地」と呼んで蔑んでいた。東西南北の異民族をそれぞれ「東夷」「西戎」「南蛮」「北狄」と呼び、異民族の漢字の訳名にも、「けものへん」の漢字(「玁狁」)や「奴」などマイナスイメージの漢字(「匈奴」「倭奴」)を多用した。

近代になって西洋列強が中国に攻め込んだ後、「夷」は西洋人の呼称としても使われた。抗日戦争中に、日本や日本人を「小日本」「日本鬼子」と呼んで蔑んだ。台湾でも、オランダ人を「紅毛番」と、先住民族を「蕃人」と呼んでいた。日本語でも、古い言葉に「穢多」「非人」などの例がある。この辺りの言葉が差別用語なのは自明だろう。「蝦夷」についても、漢字の当て方から侮蔑的な意味合いが読み取れる。

流石に現代の中国語話者は外国人を「夷」と呼んだり、日本人を「日本鬼子」と呼んだりしないが、現代中国語でもこの種類の差別用語が多数生きている。台湾の中国語で、性転換者を「人妖」と、言動が女っぽい男性を「娘娘腔」と、中国人を「426(死阿陸)」と呼ぶのがそうである。もともと障碍者を「残廃」「残障」と、ハンセン病を「麻瘋病」と呼んでいたが、今はポリティカル・コレクトネスの観点から「身心障碍人士」「漢生病」などと言い換えている。ちなみに、恥を晒すことを「出洋相」と言い、字面から見れば西洋人を蔑む意味合いが読み取れそうだが、語源が分からないので言い切れない。

もう一つの種類は、字面からは必ずしも差別的な意味合いが読み取れないが、歴史的に侮蔑的な文脈で使われることが多かったので、差別用語と見なされるような類である。

中国語では同性愛者を「同性恋」と、性転換者を「変性人」と呼んでいたが、どちらも差別的な文脈に使われることが多くて語感が毒々しくなったため、「同志」「跨性別(トランスジェンダー)」と言い換えている。「娼妓」「妓女」を「性工作者(セックスワーカー)」と、「外籍労工」や「外労」(=外国人労働者)を「移民工作者」「移工」、「外籍配偶」や「外配」(=外国人配偶者)を「新移民」と言い換える例もこれに該当する。これらの例はいずれも字面だけ見れば(例えば中国語を初めて学習する人の場合を想像するといいだろう)、なんら侮蔑的な意味合いが読み取れないが、そうした言葉は実際に差別的に用いられてきた歴史的な事実を蔑(ないがし)ろにすべきではないだろう。

日本語においても例がたくさんある。「ホモ」「レズ」「オカマ」「オナベ」などがそうだろう。「レズビアン」という言葉は「ビアン」と略せばよくて、「レズ」と略すと差別用語になるというのは、一見ナンセンスなように聞こえなくもないが、「レズ」は差別的な文脈(「ほら、レズだぜレズ」「レズAV」「レズに混ざりたい」)で使われることが多かったという事実は無視できない。「めくら」「おし」などが差別用語とされている理由も同じだろう。

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