台湾はいかに民主的に新型コロナウイルスとの防疫戦を展開しているのか

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鄭 仲嵐 【Profile】

新型コロナウイルス肺炎の流行が中国で始まったのは1月のことだった。それからたった2カ月で全世界に広まり、今も、猛威を振るい続けている。米国やスペイン、イタリア、ドイツは中国の感染者数を超え、いまや、深刻な「被災地」となっている。一方で、台湾は、現在も感染確認者の人数が抑えられている。政府は、人員を効率よく集団動員して感染症対策を実行し、多くの人が、「政府は、肝心な時に力を発揮してくれる」と信頼を深めている。

“震源地”中国が救援者となる皮肉

ちょうどこの頃、中国は日本に対して信じがたい援助の手を差し延べた。まだ、中国で爆発的な流行が始まった時期の日本から中国への支援の「返礼」として、マスクや医療物資を日本に贈ったのだ。

中国はウイルスの発生源であり、感染症が激増した初期には意図的に情報を隠ぺいし、国際社会に真実を伝えなかったと批判されている。世界保健機関(WHO)への情報提供もしばしば遅れた。多くの西側メディアが、中国がWHOを操縦した結果、事態の重大さが各国に正しく伝わらず、世界的まん延を防ぐための機会を逸したのではいかと疑っている。

正体不明のまま感染症は中国の外へと拡散し、3月初めにはイランやイタリアで感染爆発が相次いで発生して、「陥落状態」となった。すると、中国は「救援者」の立場で、医療面での援助を申し出た。さらに、中国で感染が確認された8万1000人余の患者のうち、7万5000人が治癒して退院したなどのデータを提供。その信ぴょう性を確認する手立てはないのだが、世界各国の指導者は自国に降りかかった災難を振り払うために、なりふり構わず、中国からの一方的な提案と援助を受け入れるしかなかった。

国民への協力要請には限界?

そんな中で、「民主政治には明らかに欠陥がある。中国のような独裁制の方が、状況をコントロールするには効果的だ」といったうがった見方さえも出ている。

次々に「陥落」していった欧米諸国は、当初は感染拡大を阻止するため国民のモラルに訴えるしかなかったのだ。民衆には「外出しないように」と呼びかけるだけで、封鎖もさほど厳格なものではなかった。それに対して中国は、早い時期から都市を鉄のカーテンで封鎖し、外出を認めず、マンションに閉じ込めることで、「最高に効率的に」感染の拡大に歯止めを掛けた。

欧米の民主体制国家が今回、ひどい目にあったことは事実だ。そしてそのことは、中国の「対外大宣伝」の材料の一つになった。

陳時中衛生福利部長(衛生福利相)<右>は正副相当と行政院長(首相)の厚い信頼を受け、今回の感染症流行の状況下で大きな勢いを得た政治家になった(中華民国総統府提供)
陳時中衛生福利部長(衛生福利相)<右>は正副総統と行政院長(首相)の厚い信頼を受け、今回の感染症流行の状況下で大きな勢いを得た政治家になった(中華民国総統府提供)

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ニッポンドットコム海外発信部スタッフライター・編集者。1985年台湾台北市に生まれ、英ロンドン大学東洋アフリカ研究学院卒。在学中に福岡に留学した。音楽鑑賞(ロックやフェス)とスポーツ観戦が趣味。台湾のテレビ局で働いた経験があり、現在もBBC、DW中国語や鳴人堂などの台湾メディアで記事を執筆。著書に『Au オードリー・タン天才IT相7つの顔』(2020,文藝春秋)。インディーズバンド『The Seven Joy』のギタリストとして作曲と作詞を担当している。

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