台湾はいかに民主的に新型コロナウイルスとの防疫戦を展開しているのか

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鄭 仲嵐 【Profile】

新型コロナウイルス肺炎の流行が中国で始まったのは1月のことだった。それからたった2カ月で全世界に広まり、今も、猛威を振るい続けている。米国やスペイン、イタリア、ドイツは中国の感染者数を超え、いまや、深刻な「被災地」となっている。一方で、台湾は、現在も感染確認者の人数が抑えられている。政府は、人員を効率よく集団動員して感染症対策を実行し、多くの人が、「政府は、肝心な時に力を発揮してくれる」と信頼を深めている。

マスク・パニックを短期間で克服した台湾

台湾の蔡英文総統は3月30日、北部のマスク用不織布製造工場を視察し、4月の1日当たり生産量を2000万枚とする目標を掲げた。台湾のマスク生産は、3月9日時点で1000万枚だったので、短期間に倍増するという挑戦的な数字に多くの人は驚いた。蔡英文総統はその後、米国に200万枚、欧州各国には計700万枚、国交のある国には100万枚のマスクを援助する方針も打ち出した。

1月末に感染症が爆発的に拡大した時期に、台湾ではマスクが不足して「マスク・パニック」が発生した。しかし、その2カ月後にはマスクの安定供給体制が整ったことが、民心を安定させる最も重要な要因になっている。政府はメーカー各社に協力を要請し、「マスク国家チーム」を結成。短期間のうちに生産ラインが92本に達し、44日間のうちに生産能力は13倍になった。さらに、マスクの所有権を国に移し、購入量制限を導入した。この手際の良さは、欧米諸国や日本にとっては、信じられないことだったに違いない。

さらに、政府は早い段階で、デジタル技術を活用し、リアルタイムで各販売店のマスクの在庫の数を把握するアプリを開発。これは、国内外の多くのメディアやネット・ユーザーの関心を集めた。当初はICカード式の保険証と連動させ、1人当たり週2枚までの購入制限が設定されたが、台湾政府は自信に満ちた調子で、4月9日からは14日ごとに、成人用マスク9枚と児童用マスク10枚を購入できると宣言した。さらには、2カ月間で30枚までの制限付きではあるが、禁止されていた国外へのマスク郵送を改めて解禁した。台湾政府にとっての弱みだったマスク不足は、逆に強みになっているのだ。

多くの国は、今もマスク不足が続いている。日本では、安倍晋三首相が2月29日の記者会見で、「3月にはマスクの供給量を6億枚に引き上げる」と明言したのだが、3月末になっても、スーパーやドラッグ・ストアのマスクの棚は空っぽで「入荷予定未定」の貼り紙がしてある。ツイッター上では「消えた6億枚のマスクを探せ」が、検索のホットワードになった。そればかりか、医療現場や高齢者福祉施設からもマスク不足の悲鳴が上がるほどだ。

台湾でのマスク日産量は現在までに1000万枚に達し、4月には2000万枚に達する見込みだ(中華民国総統府提供)
台湾でのマスク日産量は現在までに1000万枚に達し、4月には2000万枚に達する見込みだ(中華民国総統府提供)

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ニッポンドットコム海外発信部スタッフライター・編集者。1985年台湾台北市に生まれ、英ロンドン大学東洋アフリカ研究学院卒。在学中に福岡に留学した。音楽鑑賞(ロックやフェス)とスポーツ観戦が趣味。台湾のテレビ局で働いた経験があり、現在もBBC、DW中国語や鳴人堂などの台湾メディアで記事を執筆。著書に『Au オードリー・タン天才IT相7つの顔』(2020,文藝春秋)。インディーズバンド『The Seven Joy』のギタリストとして作曲と作詞を担当している。

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