「2021年の聖火ランナー」として走るための決意したこと

社会 スポーツ 東京2020

東京2020オリンピックの聖火ランナーに内定していた筆者が、五輪開催が1年延期されたことを受け、複雑な感情と2021年の開催に向けた意気込みと台湾との交流にかける思いをつづった。

「台湾代表」として

今回、聖火ランナーといっても、私が走るように割り当てられた距離はわずか200メートル。時速6キロぐらいで走るから、たった2分で走り終わる。何も考えていないと、あっという間に終わってしまう。だからこそ、しっかりとした交流に結びつけたい。それが日台の両方につながる私の役割だと考えた。

特に、台湾の人たちには、ぜひ、隣国日本の五輪を楽しんでもらいたかった。台湾は五輪に参加することができるが、名称は「チャイニーズ・タイペイ」を使っている。台湾の人々は、望ましくはないが、参加するためには止むを得ないとことだと受け止めている。そんな彼らの前で、私は「台湾代表」として石川県を走ることで、一緒に五輪を楽しんでもらいたいと考えた。

聖火ランナーとして走ることが正式決定された後、中能登町の町長や、台湾の知人に声をかけ、協力をお願いしながら、プランを練り始めた。目的は、日台の交流と、台湾人にオリンピックを一緒に体験してもらうことだ。そのため、「台湾報恩交流団〜和一青妙一起走奧運(台湾恩返し交流会~一青妙とオリンピックを一緒に走ろう)」というテーマで、台湾からツアーを組むことにした。石川県や中能登町を巡り、地元の人々との親睦を図りながら、最後は聖火ランナーとして走る私と共にオリンピックの雰囲気を味わってもらう4泊5日の日程が決まった。オリンピックの延期が決まり、企画は幻となったが、再度東京五輪の開催日が決まり、聖火ランナーの走行日も確定された時には、ぜひ大勢の台湾人に参加してもらいたいと思っている。今回の延期は、より楽しく、充実したツアーとなるための再検討期間として捉えたい。

私は、オリンピックを台湾人に身近に感じて欲しいと思っている。なぜなら、2つの中国を認めない中華人民共和国の方針により、台湾はオリンピック開催国となることはできないだけでなく、台湾が五輪に参加する際は、チャイニーズタイペイ(中華台北)という名義にすること、及び「中華台北五輪委員会旗」及び「国旗歌」を使用することを強いられている。

台湾では「台湾」という名称については社会にコンセンサスがある。チャイニーズタイペイとして五輪で持つオリンピックの5色のマークと台湾の国旗をアレンジした「中華台北五輪委員会旗」は見ていてどうもしっくりこない。国歌ではない「国旗歌」を歌うのもしっくりこない。

私には台湾人と日本人の血が流れている。東京五輪では日本人として聖火を持って走るわけだが、気持ちのうえでは台湾代表として走って、台湾人の人にも東京五輪に一緒に参加しているように思ってもらいたいと願った。

台湾と五輪

台湾は、戦前から五輪と関わりを持っていた。名桜大学上級准教授・菅野敦志氏の研究などによると、台湾人初の五輪選手は1932年のロサンゼルスと1936年のベルリン大会に日本代表として選出された張星賢だ。彼は、早稲田大学に在籍し、ラグビーで日本人代表となって活躍した柯子彰などの誘いを受け、同大学への留学を決意し、陸上競技のトレーニングを続けた。出場はできたが、残念ながらメダルを手にすることはできなかった。

日本統治下の台湾における先住民族の身体能力を高く評価した日本政府は、1940年の東京五輪に向けて、先住民族の陸上選手の発掘と強化に力を入れ始めた。その結果、アミ族出身のカサウブラウ(Kacaubunloh)やラケナモ(Rakehnamoh)といった選手の出場とメダル獲得が有望視されていた。ところが、戦争のため1940年の東京五輪は中止となり、台湾人選手の活躍は幻に終わってしまった。メダルに手が届いたとしても、「日本人選手」ではあったのだろうが、台湾の誇りとして歴史に残ったに違いない。台湾選手で戦前メダリストになった人はいなかった。

戦後に初めて台湾代表でメダルを手にしたのは、1960年ローマ五輪の陸上十種で銀メダルを獲得した楊伝広。彼もアミ族出身だった。楊伝広は1964年の東京五輪にも出場したが、メダル獲得はならなかった。1960年のローマ五輪では台湾の参加名義は「中華民国台湾」で、1964年の東京五輪では「台湾」という名義だった。台湾は、五輪ごとに名前が変わっているのもかわいそうだ。

楊伝広や呉阿民など陸上競技で表彰台を狙える選手がいたが、結果は振るわず、台湾の名を世界に広める夢は叶わなかった。

1960年のローマ五輪の陸上十種競技で銀メダルを獲得した楊伝広(左)(AP/アフロ)
1960年のローマ五輪の陸上十種競技で銀メダルを獲得した楊伝広(左)(AP/アフロ)

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