インタビューで垣間見たオードリー・タンの素顔

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近藤 弥生子 【Profile】

台湾のデジタル大臣、オードリー・タン(唐鳳)氏に今、日本から熱い視線が注がれている。筆者は2019年12月に公開されたYahooニュースの特集記事『「国民が参加するからこそ、政治は前に進める」――38歳の台湾「デジタル大臣」オードリー・タンに聞く』で彼女へのインタビューを行った。そこで垣間見たオードリーさんの素顔とは。

「いじめは一年間だけ」エピソードに見た達観

筆者が寄稿したYahooニュースの特集記事は、特集とはいえネット媒体の記事としては珍しく、半年もの時間をかけて準備した。台湾のインターネット上に書かれていることにはひと通り目を通しているが、大部分の報道には「オードリー・タンは幼いころ壮絶ないじめにあった」と書かれており、取材前から彼女のこれまでの人生がどれだけ苦しいものだったのかに思いを馳せ、勝手に胸が締め付けられるような思いでいた。

ところが、インタビューの場でオードリーさんはあっけなく笑いながら言った。

「学校や先生、クラスメイトたちに風評被害があると申し訳ないので、これは絶対に訂正させていただきたいのですが、私がいじめにあったのは小学2年の1年間だけです。私は3つの幼稚園、6つの小学校、そして中学は1年間だけと、10年間で10の学校に行っています。何かあったらすぐに転校するので、いじめがずっと続いていたわけではありません。転校したのは私自身の適性問題だった部分もあるのです」

驚いた筆者が思わず「台湾のインターネット上では全く違うことが書かれています。多くの人が参照するウィキペディアの情報だけでも直しては?」と聞くと、即座に「ウィキペディアは『他人が発表した情報を元に、第三者が編集する場所』で、さまざまな人が編集できる空間を残しているんです。当事者は情報を編集してはならないという原則がありますから、私が情報を変えるということはしません」と答えた。

それならば筆者自身が情報を訂正しても良いかと食い下がると、その答えはこうだった。

「あなたも私を取材した当事者ですからダメですね(笑)。あなた方の報道を見た第三者が編集するなら大丈夫です」

大臣就任前からインターネット上の立法に関わる

このやり取りで、オードリーさんはとてもルールを重んじる方なのだという印象を受けた。

それもそのはず、デジタル大臣に就任するずっと前の15歳頃からIETF(インターネット技術特別調査委員会。インターネットで利用される技術の標準を策定する組織)でインターネット上の規則作りに関与したり、W3C(World Wide Web Consortium。Web技術の標準化を行う非営利団体)で通信ルールの取り決めを行うなど、国境を超えたインターネットという世界のルール制定に参加していたのだった。

彼女はそれを「インターネットには国境がないので国家という概念でこそないが、そこでしていた仕事はすべて政治のようなものだった」と語っている。台湾のデジタル大臣としての活動も、彼女にとってはそれらと同じようなこととして捉えているように思えた。

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台湾台北在住の編集・ライター。日本語・中国語(繁体字)でのコンテンツ制作を行う草月藤編集有限公司を主宰。雑誌『&Premium』で「台北の朝ごはん」「日用品探索」を連載中。プライベートでは二児の母。ブログ「心跳台灣」を運営(www.yaephone.com)。

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