SARSから17年を経て変わった台湾 : 防疫意識がウイルスを閉じ込める網に

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木下 諄一 【Profile】

新型コロナウイルスによる感染症の封じ込めに成功していると世界から注目される台湾。しかし、人々の間には自粛疲れもあり、4月の大型連休には観光地に多くの人が出掛けたという。それでもなお、感染者が少なく抑えられているのはなぜなのか―台湾在住の筆者が読み解く。

大型連休で心配された集団感染

台湾では4月2日から5日まで清明節(先祖の墓参りをする日)を挟んでの4連休があった。

中央流行疫情指揮センターは集団感染を心配して国内11カ所の観光スポットを挙げ、できることなら自粛、ただ強制はできないのでそれでも行くならほかの人と距離を保持するようにと事前に緊急発令で呼びかけた。

そうはいっても、長い間の自粛生活でかなりストレスの溜まっている人も多い。「はい、そうですか」ということを聞く人ばかりではない。しかも観光スポットはどれも屋外なので大丈夫だという思いもある。

連休明けの統計では指揮センターの呼びかけがあったにもかかわらず、11カ所の観光スポットに延べ150万人が出掛けた。

これを聞いて、ぼくは「終わった」と思った。これまで防疫で頑張ってきた台湾だが、おそらく集団感染は免れないと思ったからだ。

しかしその後、感染者は増えて来ない。そして4月14日にはついに初めてゼロ感染を記録した。さらに一日挟んで16日、17日と2日連続のゼロ感染。日ごろから注意を促しているマスクと手洗いの効果なのか、それとも事前の呼びかけが多少なりとも影響したのか分からない。とにかく奇跡が起こったと思った。

この日は何とも清々しい気分になった。それまで友達を食事に誘っても「こういう時期だから止めておきましょう」といわれ続けて、しょんぼりしていたのが、一気に心が明るくなった。もしかしたら国内だけなら意外と早く終わるかもしれない。思わずそんなことまで想像してしまったほどだ。

ところが翌日、軍艦に乗っていた実習生と軍人あわせて3人の感染が発見される。その後感染者は軍隊の中で増え続け、4月23日には29人になった。

彼らは台湾に上陸後、あちこち動き回っていた。その間、彼らと接触した人1237人。509人が自宅隔離、728人が自主健康管理の対象となった。再び暗くなる。

それでも台湾の人たちを見ていると、みんな諦めていない。防疫の網を破られないように必死で追跡調査と健康管理を続けている。思わず「頑張れ台湾」と叫びたくなる気分だ。

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木下 諄一KINOSHITA Junichi経歴・執筆一覧を見る

小説家、エッセイスト。1961年生まれ。東京経済大学卒業。商社勤務、会社経営を経て台湾に渡り、台湾観光協会発行の『台湾観光月刊』編集長を8年間務める。2011年、中国語で執筆した小説『蒲公英之絮』(印刻文学出版、2011年)が外国人として初めて、第11回台北文学賞を受賞。著書に『随筆台湾日子』(木馬文化出版、2013年)、『記憶中的影』(允晨文化出版、2020年)、『阿里阿多謝謝』(時報文化出版、2022年)、日本語の小説に『アリガト謝謝』(講談社、2017年)などがある。フェイスブックとYouTubeチャンネル『超級爺爺Super G』を開設。

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