未曾有のコロナ危機にも「台湾式」の明るい対処法

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野崎 孝男 【Profile】

台湾政府のコロナ対策が注目されているが、台湾社会もまた、未曾有の危機をいかに乗り切るかについて、知恵を絞った取り組みを続けている。不眠不休で患者を助ける医療関係者や、営業面でダメージを受ける企業に対して人々の善意による支援の輪が広がり、社会が荒むことを食い止める好循環が起きている。

医療関係者への応援が続々と

「ありがとう!!感染症との闘い、みなさんおつかれさま」

これは高雄市のアイスクリーム店が医療関係者へアイスクリームを無料提供した際のメッセージだ。その文面には明るい雰囲気が伝わってくる。世界中で新型コロナウイルスの脅威が拡大している中、台湾での防疫対策は世界から高い評価を得ている。台湾政府の取り組みは、超法規的な措置を正しい方向と透明性を保ちながらちゅうちょなく行った英断の結果ともいえる。

それでも経済に与えている影響は甚大で、その大きさは2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)以上になるといわれている。特に観光業、宿泊業、飲食業などは壊滅的に近い打撃を受けている。

しかし、台湾で飲食店を経営する私個人の見方としては、台湾社会の雰囲気はそれほど悲観的ではないと感じている。たとえば冒頭のアイスクリーム店のように、自らも苦しい状況でも、第一線で防疫対策に向かい合っている医療関係者への温かい応援活動が多く行われているからだ。

台湾のマスク配給制が日本で大きく取り上げられているが、台湾でマスク騒動が全くなかったわけではない。しかし、マスク騒動が落ち着き始めた2月中旬ごろから社会は冷静になり始め、防疫対策で奮闘する医療関係者への関心が高まり始めた。私が知り得たいくつかの事例を紹介したい。

まずは私が暮らしている台南市で80年の歴史を誇るカニおこわの名店「阿霞飯店」だ。台南市で新型コロナウイルスの検疫を担当する成功大学病院で働く全てのスタッフへ合計6600食のおこわとデザートを提供した。その対象は医師から警備員、病院ボランティアスタッフまで全ての医療関係者であった。総経理(社長)の呉健豪氏はインタビューで「防疫対策に向き合う医療スタッフの方々による努力で市民や学生が健康でいられることに深く感謝している」と語った。

成功大学病院の沈孟儒院長は「医療関係者は正常な時間帯に食事を行うのは難しく、普段はバナナなど簡単な食事で栄誉補給を行っている。名店の美食は疲労している医療スタッフへの大きな支援と応援になる」と喜んだ。

次に紹介するのは台南の老舗醤油会社東成醤油である。運営する宴会場の名物である豬腳麵線を奇美病院で働く全てのスタッフへ向け合計5000食を提供した。この2つの事例は非常に大きな規模での支援だが、その他にも大手、中小を問わず、多くの飲食店で医療関係者向けに医療関係者の証明書や名刺を提示すると割引が受けられるサービスなどが行われ始めている。

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野崎 孝男NOZAKI Takao経歴・執筆一覧を見る

台南市政府城市外交顧問、内政部移民署新住民發展基金管理會委員、台南市日本人協会理事長、創新美味股份有限公司董事長。1974年生まれ。台湾大学法学院博士課程後期単位取得満了。元東京都練馬区議会議員。専門は公共政策、企業マネジメント。台湾で飲食チェーン店や法律コンサル事務所を経営。

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