台湾の「先手防疫」と日本の「ホトケ防疫」、違いはどこから来るのか?

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栖来 ひかり 【Profile】

世界から称賛を集めている台湾の新型コロナウイルス対策。逆に日本の方はその対応の緩さや遅れから、台湾の人々に「ホトケ防疫」ではないかと心配されている。台湾と日本の違いを、台湾から考えてみた。

台湾人から投げかけられた疑問

新型コロナウイルス(COVID-19)が世界中に感染を拡大している現在、どの国でも朝から晩までこのニュースで持ち切りだ。それでも2月半ば以前(つまりプリンセス・ダイヤモンド号内での感染拡大が判明するまで)の日本ではどこか他人事のようで、「暖かくなれば終息する」という希望的観測に見られるような楽観さえ漂っていた。

私は台湾で暮らしているが、のんびりとした日本の姿勢を、奇異に感じる周囲の台湾人は少なくなかった。「どうして日本では早く対策をしないのか?」という疑問を、1月末には何人もの友人知人から投げかけられた。日本政府の態度は、台湾メディアで「佛系(ホトケ)防疫」と評された。「佛系」とは、日本の女性雑誌による造語「仏男子(ブッダンシ、ブッダのように恋愛にガツガツしない男子)」が元ネタになり中華圏で流行したネットスラングで、「成り行きに任せ、淡々と、何も欲せず求めずといった生活態度」を指す。日本政府の無為無策とも見えた新型コロナウイルスへの対策を、そんな言葉で揶揄(やゆ)したのである。

台湾でのCOVID-19 対策は、それほどまでに早かった。

SNET台湾(日本台湾修学旅行支援研究者ネットワーク)が台湾と日本との対策を時系列で比較する形でまとめたサイト(毎日更新)(※1)によれば、2019年の12月31日にWHOに対して中国武漢市で発生している肺炎についての報告が最初に行われた際、台湾のCDC(Taiwan Centers For Disease Control)は当日すでに情報を把握し検疫強化を指示している。年が明けて1月3日には緊急事態会議を開催し、4日には2019年12月31日以降の武漢からの直行便7便の乗客、乗員合計633人に検疫を実施。1月7日にはすでに武漢からの渡航警戒レベルを1(注意)に引き上げている。

対して日本政府が武漢市で起こった原因不明の肺炎情報を厚労省のウェブサイトに発表したのは1月5日で、さほど台湾に遅れを取ったわけではない。しかしその後、1月15日に神奈川県で一人目の感染者が発見された後も大きな動きはなく、ようやく21日になって最初の「新型コロナウイルスに関連した感染症対策に関する関係閣僚会議」が開催されたというのだから、悠長な話である。

中国武漢市からチャーター機で帰国した台湾人ら(中央流行疫情指揮中心提供)
中国武漢市からチャーター機で帰国した台湾人ら(中央流行疫情指揮中心提供)

(※1) ^ 台湾への修学旅行生や教員の方々に対して、バランス良い学びを支援する台湾研究者のプラットフォーム

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台湾在住ライター。1976年生まれ、山口県出身。京都市立芸術大学美術学部卒。2006年より台湾在住。台湾に暮らす日日旅の如く新鮮なまなざしを持って、失われていく風景や忘れられた記憶を見つめ、掘り起こし、重層的な台湾の魅力を伝える。著書に『台湾と山口をつなぐ旅』(2017年、西日本出版社)、『時をかける台湾Y字路~記憶のワンダーランドへようこそ』(2019年、図書出版ヘウレーカ)、台日萬華鏡(2021年、玉山社)。 個人ブログ:『台北歳時記~taipei story

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