台湾の「先手防疫」と日本の「ホトケ防疫」、違いはどこから来るのか?

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栖来 ひかり 【Profile】

世界から称賛を集めている台湾の新型コロナウイルス対策。逆に日本の方はその対応の緩さや遅れから、台湾の人々に「ホトケ防疫」ではないかと心配されている。台湾と日本の違いを、台湾から考えてみた。

感染者も死亡者も少ない台湾

先手を打つとはまさに今回の台湾のためにある言葉、というほど台湾政府が対応を急いだのは理由がある。2003年に猛威を振るったSARSで70人以上の人命を失った悪夢を、繰り返したくないからだ。台湾が取った対策は早期から細やかだが、特に中国・香港・マカオからの渡航禁止や、すべての公立学校の春節休み2週間の延長を早期に決めたのは、大きなインパクトがあった。実際3月6日現在で、主な10の感染国・地域のうち、台湾は感染確認数も死亡数も一番低い。

マスクの買い占めや輸出禁止策・国内マスクの生産ライン増強を図ってマスク量を確保した他、2月6日以降はマスク購入に実名制を導入し、必要な人に公平に行き渡らせる措置も講じた。デジタル担当の政務委員(閣僚)オードリー・タン(唐鳳)氏をはじめ、シビック・テッカー(テクノロジーを使って社会課題解決をおこなう市民グループ)たちによって作られた全国の薬局マスクマップや保険証との連動による配給型のマスク購買システムは、日本を始め世界のメディアでも称賛された。

2月25日には、ウイルスの感染拡大により打撃を受けた産業を救済するための特別法が可決され、600億元(約2200億円)を上限とする予算が組まれた他、マスクなどの防疫物資の買い占めや転売、デマの拡散に刑罰が科せられることになった。

力強い対策を進めるのに大きな役割を果たしているのが、移民署・衛生署・交通部など部署を越えて作られた組織横断型の「中央流行疫情指揮中心」(中央伝染病指揮センター)である。自身も歯科医師である陳時中衛生部長率いるセンターでは、あらゆる予防と対策を検討しながら毎日記者会見を行い、最新の情報を公開し、透明性を徹底している。早期から「チーム台湾」でウイルスに立ち向かっていく姿を見せて国民に安心を与え、信頼を得ることでパニックを防ぎ、「正しく恐れる」姿勢を保つという好循環を生んだ。

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栖来 ひかりSUMIKI Hikari経歴・執筆一覧を見る

台湾在住ライター。1976年生まれ、山口県出身。京都市立芸術大学美術学部卒。2006年より台湾在住。台湾に暮らす日日旅の如く新鮮なまなざしを持って、失われていく風景や忘れられた記憶を見つめ、掘り起こし、重層的な台湾の魅力を伝える。著書に『台湾と山口をつなぐ旅』(2017年、西日本出版社)、『時をかける台湾Y字路~記憶のワンダーランドへようこそ』(2019年、図書出版ヘウレーカ)、台日萬華鏡(2021年、玉山社)。 個人ブログ:『台北歳時記~taipei story

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