コロナ危機で活躍、国民の憧れとなった注目の台湾「天才」IT担当大臣はどんな人か

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2020年2月、米国の外交政策研究季刊誌『Foreign Policy』に「世界の頭脳百人」にも選ばれた台湾・デジタル担当政務委員(大臣)の唐鳳(オードリー・タン)が、最近の新型コロナウイルスの騒動のなかで、マスクの在庫が一目でわかるアプリのプログラムを開発し、日本でも一気に知名度が高まった。幼いころから天才と称され、中学中退と同時にビジネスの世界に飛び込み、アップルのデジタル顧問となって「時給=1ビットコイン」の契約を結んだ。若くして成功を収めた唐鳳は33歳でビジネスからのリタイアを宣言。2016年から蔡英文政権に招かれて35歳の史上最年少大臣となり、政治の世界に入った奇才は、台湾コロナ危機でも活躍し、世界や日本にも衝撃を与えている。

日本のテレビ番組が相次いで紹介

最近、日本のテレビ番組は相次いで台湾の天才IT大臣、唐鳳の特集番組を組んでいる。古色蒼然とした日本の大臣たちとまったく違ったタイプであるからだ。台湾でも伝説となりつつある唐鳳の魅力とはどこにあるのだろう。

優秀なプログラマーである唐鳳は、オープンソース・ソフトウエア・プログラムにおいては世界レベルの高い技術を持つ。19歳で創業してネット企業の社長を経験し、2014年ごろ米アップル・コンピューターのデジタル顧問に就任した。アップルでは、Siri(バーチャル・パーソナル・アシスタンス)など高レベルの人工知能プロジェクトに携わった。

唐鳳が当時、アップルと結んだ契約は時給=1ビットコイン(14年当時は1ビットコインが5、6万円。現在は90万円台)。唐鳳が創業で作った資産と、後に価値が高騰したビットコインを合わせれば相当な金額の資産を有するようになった。

唐鳳は33歳で早々とリタイアを宣言。唐鳳の話によれば、その後の人生は「趣味」になったという。35歳で蔡英文政権のIT担当大臣を引き受けたときも、唐鳳にとって政治は趣味の延長だったというわけだ。

唐鳳は人類が定めた様々なルールにあえて従わず、他人とは異なる人生を自ら歩もうとしてきたように見える。台湾で唐鳳は若者たちの偶像となっているが、彼らは唐鳳の破天荒な人生と特別な価値観に憧れるのだ。

子供の頃から哲学書を読む

唐鳳の両親はともにメディアで仕事をしており、考え方は知的で開明的な人々だった。父親は読書を愛好し、お金があれば本に使うような人だった。平等主義者でもあった父親は、大人に接するのと同じ態度で唐鳳にも接し、小学生の頃から唐鳳とひたすら質疑を繰り返す「ソクラテス式問答法」の対話を続け、自分の書棚にある数学や哲学の本を自由に読ませた。このような家庭で育った唐鳳は早くから知性の輝きを見せた。

小学校の知能指数(IQ)測定では、唐鳳のIQは「少なくとも160」を記録した。これはWSIC式と呼ばれるIQ測定では最高レベルの数字だ。唐鳳のIQは180という説があるが、本人によれば誤解であり、本当の数字は「測りきれない」だったという。なぜなら数値が高すぎて制限値をオーバーしていたらしい。2度ほど測定したが結果は同じだったという唐鳳の身長は180センチにまで伸びた。人々が唐鳳のIQの高さを話題にすると、自分で「皆さん、私の身長とIQを混同していませんか」と言ったり「ネットの時代はみんな誰でもIQは180です」と言ったりして、笑わせている。

学校教育に適合できず

一般の子供は学校教育のなかで小学校から高校まで学び、大学に進んだり、大学院に進んだりするが、唐鳳の学歴は中学校中退にすぎない。幼少期には9年間で3つの幼稚園と6つの小学校を替わった。唐鳳にとって、学校生活は、楽しさより苦痛の多い日々だったという。

先生たちの教える内容はすでに理解されており、授業で新しい知識は学べない。非常に記憶力がいい一方で、細かいことに拘らないので学校にハンカチやティッシュを忘れて先生に叱られることも多かった。聡明すぎて同級生から敵視され、小学校で優等班に編入されたあと、唐鳳の災難が始まった。

台湾では親も子供の成績に関心が強く、優等班の中では常に激しい競争が行われ、いつもクラスで一番の唐鳳は、同級生からいじめを受けた。一番になれないことで親から殴られた同級生は、唐鳳に対して「あなたが死ねばいいのよ、そしたら私は一番になれるのに」と言ったという。

唐鳳は先天性の心臓病を抱える。激しい感情の変化にあうと、顔色が紫色になり、卒倒することもある。唐鳳によれば「自分は身体的に怒ることができない人間」だという。あるとき、同級生に殴られて壁にぶつかって気を失い、母親に自宅に連れて帰られて服を脱がされると、胸に大きな青アザがみつかった。同級生に蹴られた跡だった。

唐鳳はその後、学校に対して恐怖心を抱く。登校拒否、復学、休学、復学などを繰り返し、中学中退後、2度と学校の門はくぐらなかった。

14歳のとき、家族の同意を得て、台北郊外の烏来という場所で、数週間1人で閉じこもって考え抜いた結果、唐鳳は、ある結論にたどり着いた。

学校に学ぶものはない

当時、唐鳳は中学校の科学コンテンスで入賞しており、名門高校への推薦入学が保証されていたが、その道を選ばなかった。学校での知識は、ウェブで知り得ることに比べて10年は遅れているように思えた。もしそうであるばら、直接ウェブから学べばいいではないかと考えたのだ。

天才は語学にも強く、小学校のとき、母親と一緒に欧州に1年修学しており、ドイツ語やフランス語にも通じている。ウェブで世界各国の学者や専門家から教えを受けることができた。質問を受けた外国人は、相手が知的好奇心の強い大学院生か何かと思い込んでいたらしいが、実際は中学校を中退したばかりの若者だったのである。

学校から永久に離れるという決断は、家庭にも大きなインパクトを与えた。自己学習で、しかも起業したいというのだ。祖父母や父親は反対したが、賛成したのは母親だった。母親はメディアの仕事をやめて実験的な学校を設立した経験もあり、学びは決まった一つのルートだけではないという考えを持っていたので、唐鳳の最大の理解者となった。

14歳で学校を離れた唐鳳は、16歳でコンピューター会社の経営に参画し、企業社会に足を踏み入れた。プログラマーとしても、経営者としても、順調な歩みを続けた。複数の企業を立ち上げ、アップルやオックスフォード出版など著名会社のデジタル顧問に就いた。

トランスジェンダーになる

唐鳳は人と人を区別する「境界線」は存在しないと考え、性別も乗り越えることにした。生まれたときは男性で、名前も唐宗漢といったが、25歳のとき、女性への性転換を決め、名前も中性的な唐鳳に変えた。台湾で最初のトランスジェンダーの閣僚となり、閣僚名簿の性別欄にも「無」と記入された。

唐鳳の両親は、トランスジェンダーについてどう考えているか?両親とも「唐鳳がそれで幸福になれるならば心から応援する」という反応だ。天才の子供に対して、両親に必要なのは無条件の愛情と寛容なのである。

自らが普通とは異なる道筋で成功を遂げてきた経験から、唐鳳は、民主社会は多数決が原則ではあるが、善良な少数派の人々も影響力を行使できる社会のシステムが必要だという主張を唱えている。

少数者の声を政治に

デジタル担当大臣になったあと、唐鳳は政策についてパブリック・オピニオンを募るネット上のプラットフォームをつくり、国民に対して、実施可能な政策アイデアを出すように求めた。政府と民衆の境界線を打ち破り、社会の本当の声が、政府にしっかり伝わる仕組みを作ったのだ。

台湾は環境保護を重視しているが、2019年7月にはプラスチックのストローを全面的に禁止した。この政策の出発点は16歳の高校生の女の子が、このプラットフォームで提案したものだ。このアイデアに5千人が賛同し、環保署(環境省に相当)が政策として法制化した。台湾はタピオカミルクティーが有名で一年で10億杯ものドリンクを消費すると言われる。その大きな変革は、唐鳳の作ったプラットフォームで1人の女子高校生の提案から始まったのである。

台湾は長きにわたり中国の圧力で国際組織から排除されていたが、唐鳳は国際連合の会合に参加できる方法を思いついた。デジタル方式の参加であり、台湾の声を世界へ送り届けるにあたり、科学技術と外交を組み合わせる方法を編み出している。

大臣ではあっても、唐鳳にはまったく「壁」や秘密というものがない。すべての仕事の議事はネット上で公開されている。政府の政策会議に参加するとき、唐鳳はその場で自分のパソコンに議事録を打ち込み、会議が終わった途端に10ページ以上に及ぶ議事録がネットで公開されてしまうこともある。

毎週水曜日のオフィスアワーは対外開放となっており、政府に何らかの提案がある人は、年齢や職業を問わず、唐鳳とアポイントをとることができる。そのほか、夜には、台湾内外のグループや専門家、クリエイティブな人材を集めた会議を開く。食べ物も用意され、時には深夜11時まで侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論が続くこともある。

私は、唐鳳が何度も著名なテレビ司会者の番組に出演しているのを見たことがあるが、唐鳳の思考はシャープで、言論も鋭く、情報を整理する力はとてもパワフルである。通常、唐鳳と10分も話していれば、司会者は唐鳳に言い負かされたようになってしまう。

眠ることが大脳を活性化

25分間仕事するごとに5分間の休憩を取る。また、毎日必ずメールボックスのメールを捨て、「To Do リスト」のやるべきことを残さない。

多忙な日々のなかでも、毎日8時間の睡眠を確保することが、唐鳳の健康の秘訣だ。「問題を考えながら眠り、起きたときには答えが出ている」。唐鳳にとって、睡眠は大脳に癒しと閃きをもたらすようだ。

もう一つの癒しは、毎週決まった時間にフランスにいる精神分析医と45分間の対話を行っていることだ。この対話は、日本の小説家である村上春樹が毎日行なっているマラソンと同じで、唐鳳にとって常にベストのパフォーマンスを発揮するために必要な精神的なデトックスとなっているのだ。

バナー写真:唐鳳(オードリー・タン)氏(YONHAP NEWS/アフロ)

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