インド映画SUMOに出演した元力士が語る「驚くべきインドパワー」

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インド映画といえば、日本でも大ヒットした「ムトゥ 踊るマハラジャ」などがある。あのヒットから22年。すでにインド映画のスターの出演料は、ハリウッドスターをもしのぐ勢いになっている。突然のオファーを受け、インド映画「SUMO」に出演することになった元力士が、その撮影秘話とそこで感じたインドパワーについて語ってくれた。

大スターの映画はシネコンで1日何十回も上映し、すべて満員

インド国内での撮影にも参加した田代さんは、インド映画の驚異的な人気と映画業界の人たちの経済的、社会的地位の高さを感じたという。

「インドの街中でも撮影しましたが、スタッフは『静かにしろ!そこどいて!』という調子で、一般の人たちを強引にどかしてどんどん撮影していきます。車やバイクも平気で止めます。エキストラは使わず、そこにいる人たちにマイクで呼びかけて指示をし、参加させたりしていました。何事もなんとかしてしまう力がある。また、映画のインド人スポンサーの家にあいさつに行ったら大豪邸で、高級車が十数台置いてありました。大スターの人気はすさまじく、トップ俳優の年収は50億円くらいだそうです。大スターのサルマン・カーンが誕生日に自宅のバルコニーに出てくると、家の前には群衆が集まって絶叫します。まるでロックスターのライブのようです」

街の人をエキストラにしたシーンの撮影中の様子
街の人をエキストラにしたシーンの撮影中の様子

田代さんは数年前に、このサルマン・カーンとインドの下着のCMで共演したことがあるが、この時も突然のオファーで、これほどのスターだとは知らなかった。サルマンと一緒の写真を見せると、インド人の田代さんへの態度は劇的に変わり、「一緒に写真を撮ってくれ」と言われるという。

「インドで大スターの映画が公開されると、とんでもないことになります。現地でシネコンに行って上映スケジュールを見ると、十数スクリーンあってもすべてその大スターの映画で1日80回くらい上映しています。それが全部、満員。みんな大騒ぎしながら、1日に何度も観るから、100日くらい連続で上映しても満員なんだそうです。インドのスケールの大きさに驚きます」

インド映画の人気はインドだけではない。大ヒット映画「バーフバリ」シリーズなどインド映画を多く配給する日本の映画会社「ツイン」の松本作(まつもと・つくる)さんはこう語る。

「世界興行収入300億円を超えた『バーフバリ』のヒットによって起こったインド映画ブームは、今までとは違いました。日本でも観客がタンバリンを鳴らし光り物のサイリウムを振り、映画の世界に入り込んで、主人公たちを応援し歓声を上げるという“応援上映”が各地で行われた。こうした体験から熱狂的なファンが生まれ、日本人の有志によるインドツアーなども行われています。3月27日には、『バーフバリ』のプラバース主演でオープニング世界興行収入歴代2位を記録した『サーホー』が日本でも公開されます」

日本人も人間的なパワーをつけないと勝てない

インド映画の後には、田代さんは中国映画「唐人街探案3」に、妻夫木聡、長澤まさみなど日本の名だたるスターたちと共に出演。力士役でポスターにも登場している。
インド映画の後には、田代さんは中国映画「唐人街探案3(原題)」に、妻夫木聡、長澤まさみなど日本の名だたるスターたちと共に出演。力士役でポスターにも登場している。

一方、田代さん出演の「SUMO」の公開は1月8日と聞いていたが、いまだに公開されていない。スタッフにどうなっているのか問い合わせても何の連絡もなかった。インドの人からみると「そんなの、気にすることないよ」という感じなのだろう。それもまたインドパワーか。

「日本には細かいことを気にする人が多い一方、昔みたいに強気でギラギラした人がいない。最近の若者は草食系でまったく欲がなく、争いごともせずにとても静か。『なんとかしてやろう』という人間的なパワーがなくなっているように思います。もっと人間的パワーをつけないとインドには勝てない。僕も今回の経験で、まずは英語を勉強しようと思いました。そうじゃないと同じ“土俵”に立てませんから」

取材・文:桑原 利佳、POWER NEWS編集部
インタビュー撮影:今村 拓馬
インタビューカット以外の写真は、全て田代良徳さん提供

バナー写真:映画「SUMO」のポスター(部分)

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