島々の悲歌――沖縄、琉球と台湾(後編)

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李 琴峰 【Profile】

飛行機で石垣島へ向かい、港の近くのビジネスホテルで一泊した。翌日は陽射しが眩しいほど晴れ渡る日で、私は「フェリーよなくに」に乗って与那国島へ出発した。

「フェリーよなくに」は石垣島と与那国島を連絡する貨客船で、週2便就航している。所要時間は4時間強で、30分で到着する空路と比べれば時間はかかるが、運賃は航空券の4分の1くらいでとても経済的である。

日本の辺境の地ということもあり、値段も安いので船内の環境が少し心配だったが、全くの杞憂である。フェリーの中は広くてとても快適で、椅子席の他に横になれる和室や、ベッドを備える客室もあり、好きな場所を自由に選んでいいことになっている。ロビーにはソファや自動販売機もあり、船室の外にはのんびり海が眺められるベンチ席もある。国際フェリーほど豪華ではないが、4時間の船旅には十分な設備である。船体が大きく定員が120人らしいが、この日は十数人しか乗客がいなくて、その多くは高齢者の方だった。

船に乗り込んだ後に知ったことだが、「フェリーよなくに」は航行中に風が強いため揺れが激しく、日本一の「ゲロ船」と呼ばれているらしい。嘔吐する乗客が多いからか、トイレ内には「洗面台に嘔吐しないでください」との注意書きがあり、洗面台とは別に設置されているスロープシンクには「嘔吐の際はこちらをご利用ください」とわざわざ書いてある。幸い私は乗り物酔いしない方なので平気だった。

そこそこ快適な船内(筆者撮影)
そこそこ快適な船内(筆者撮影)

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李 琴峰LI Kotomi経歴・執筆一覧を見る

日中二言語作家、翻訳家。1989年台湾生まれ。2013年来日。2017年、初めて日本語で書いた小説『独り舞』で群像新人文学賞優秀作を受賞し、作家デビュー。2019年、『五つ数えれば三日月が』で芥川龍之介賞と野間文芸新人賞のダブル候補となる。2021年、『ポラリスが降り注ぐ夜』で芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。『彼岸花が咲く島』が芥川賞を受賞。他の著書に『星月夜(ほしつきよる)』『生を祝う』、訳書『向日性植物』。
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