北極星がつないだ台湾先住民族と日蓮宗の日台宗教交流

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大洞 敦史 【Profile】

Rahic Talif(ラヘズ・タリフ)氏は台湾先住民族アミ族出身のアーティスト。台湾東海岸を拠点に、流木やビーチサンダルなど自然物や大量生産後に遺棄された物を素材として、アミ族伝統の海洋文化や自然災害をテーマにした作品を長年制作している。2019年秋に能勢電鉄主催の「のせでんアートライン」に際し、北極星を信仰する日蓮宗の霊場・能勢妙見山の境内に大きな木製彫刻を作り上げた。思想や価値観の異なる者同士が、共通点に着目して互いを認め合う形の豊かな日台宗教的交流を実現している。

ラヘズ氏と日本との関わり

ある日ランチに寄った食堂で、ラヘズ氏は筆者に彼の先祖と「日本」との関わりを語ってくれた。

ラヘズ氏の家族を長期間、実に4代にわたって研究対象としてきた日本人の人類学者がおり、彼が譲り受けたラヘズ家に伝わる祭祀(さいし)用の器や麻の衣(ラヘズ氏が儀式をささげた際に着用したのと同じもの)等が、大阪の国立民族学博物館(みんぱく)に収蔵されているという。

ラヘズ氏は言う。

「ぼくの父は日本統治期に生まれ、学校の先生も日本人だった。その影響を強く受けた父から、ぼくも子供のころ礼儀作法や丁寧な言葉遣いを、また人や物事に誠実に向かい合う態度を教え込まれた。その後ぼくが20代の頃、なんと当時の先生が、日本からわざわざ父を訪ねに来てくれたんだ。ところが先生は父が重労働に従事し苦しい日々を送っている様子を見てがっかりしていた。子供の頃の父はずば抜けて優秀だったから。父は日本の地を踏むことを夢見ていたが、とうとう果たせなかった。だからぼくが日本に来ることは、父の夢を替わりに果たすことでもあるんだ。父の先生については九州出身という以外何も知らないが、いつかお墓参りしたいと思っている」

ラヘズ氏の作品は台東県にある「東部海岸風景區管理処・都歴遊客中心」に多数、展示されている。また、公式サイト上で最新の活動情報をチェックできる。

バナー写真=アミ族の正装で儀式を執り行ったラヘズ・タリフ氏(右)と筆者(筆者提供)

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1984年東京生まれ、明治大学理工学研究科修士課程修了。2012年台湾台南市へ移住、そば店「洞蕎麦」を5年間経営。現在「鶴恩翻訳社」代表。著書『台湾環島南風のスケッチ』『遊步台南』、共著『旅する台湾 屏東』、翻訳書『フォルモサに吹く風』『君の心に刻んだ名前』『台湾和製マジョリカタイルの記憶』等。

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