北極星がつないだ台湾先住民族と日蓮宗の日台宗教交流

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Rahic Talif(ラヘズ・タリフ)氏は台湾先住民族アミ族出身のアーティスト。台湾東海岸を拠点に、流木やビーチサンダルなど自然物や大量生産後に遺棄された物を素材として、アミ族伝統の海洋文化や自然災害をテーマにした作品を長年制作している。2019年秋に能勢電鉄主催の「のせでんアートライン」に際し、北極星を信仰する日蓮宗の霊場・能勢妙見山の境内に大きな木製彫刻を作り上げた。思想や価値観の異なる者同士が、共通点に着目して互いを認め合う形の豊かな日台宗教的交流を実現している。

仏教とアミ族信仰の交流

のせでんアートラインのクロージングセレモニーで、ラヘズ氏は先祖代々伝わる麻の衣や、太陽や月のシンボルが刻まれた木の首飾り、色鮮やかなポーチ等を身に付けた上で、ゆっくりと作品の周りを歩きながら、2つのアミ語の歌をささげた。一つは今回の巨大台風で犠牲となった人々の魂を慰めるために、もう一つは開幕時にラヘズ氏がこの地へ呼び寄せた祖霊を元いた場所へ送り返すために。清らかでかつ力強いアミ語の歌声が、木立に囲まれた山上の広場に響き渡った。

歌の後で、宿坊の屋根の上から芽を出したカエデの苗木をラヘズ氏が作品を見下ろす位置に植え、執事長の新實信導上人が法華経を読経された。

日蓮宗は他の宗教・宗派に対してかなり厳しい宗派という印象を持っていたので、台湾原先住民族の伝統的信仰に基づく作品を境内に恒久設置し、祈りもささげる様子を見て、考えを改めさせられた。

思想や価値観の異なる者同士が、真偽や優劣を論じるのではなく、まずは双方の共通点に着目して、それを端緒に互いを認め合い、よい関係を築いていく。そういうプロセスを経てきた今回のアートプロジェクトは、異国間の思想的交流としても、大変優れた実例になったと思う。

ラヘズ・タリフ氏の作品のそばに植えらえたカエデの前で読経する新實信導上人(Ai Nakagawa撮影)
ラヘズ・タリフ氏の作品のそばに植えられたカエデの前で読経する新實信導上人(Ai Nakagawa撮影)

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