北極星がつないだ台湾先住民族と日蓮宗の日台宗教交流

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Rahic Talif(ラヘズ・タリフ)氏は台湾先住民族アミ族出身のアーティスト。台湾東海岸を拠点に、流木やビーチサンダルなど自然物や大量生産後に遺棄された物を素材として、アミ族伝統の海洋文化や自然災害をテーマにした作品を長年制作している。2019年秋に能勢電鉄主催の「のせでんアートライン」に際し、北極星を信仰する日蓮宗の霊場・能勢妙見山の境内に大きな木製彫刻を作り上げた。思想や価値観の異なる者同士が、共通点に着目して互いを認め合う形の豊かな日台宗教的交流を実現している。

自然災害をテーマに

今回ののせでんアートラインはテーマが「避難訓練」であり、10年以上前から台風をはじめとする自然災害を創作上のテーマとしてきたラヘズ氏はぴったりの人選だった。驚くべきは、会場となる霊場・能勢妙見山と、アミ族の伝統的観念が、共に天空の星を崇拝しており、そのシンボルまでそっくりという偶然の一致だ。

能勢妙見山の境内を歩いているとき、あちこちで十字型のマークを目にした。筆者はキリスト教の十字架を連想したが、鎌倉時代からこの地を治めていた能勢氏の家紋で、今は北極星のシンボルになっていると教えられた。日蓮宗の寺でなぜ北極星が信仰されているのかというと、平安時代以来、北極星を神格化した「妙見大菩薩」が祭られてきた事に由来している。

能勢妙見山のシンボルとされる十字型の北極星(能勢妙見山提供)
能勢妙見山のシンボル、十字型の北極星(能勢妙見山提供)

アミ族の信仰における最高神、太陽のトーテム「八角星」(https://www.wikiwand.com/zh-tw/阿美族)
アミ族のトーテム「八角星」(https://www.wikiwand.com/zh-tw/阿美族

一方、アミ族の自然崇拝的信仰においては太陽が天地を創造した最高神であり、太陽や星のトーテム「八角星」は、能勢妙見山のシンボルと不思議なほどそっくりの形をしている。また月も神話の中で重要な意味を持っていて、ラヘズ氏は筆者に、彼の故郷に言い伝えられてきた神話を語ってくれた。

「昔々、二人の兄妹が小船をこいで漁に出た。いつしか来た方向を見失ってしまったが、兄は父母から聞かされた教えをおぼえていた。『もしも航海の途上で方角を見失ったら、月の方向へ船を走らせなさい』。それで二人は夜を待って月に向かって船をこいで行き、月が山に隠れようとする頃、陸地に漂着した。二人は船の木板のすき間に詰まっていた粟の実をまいて育て、ずっとそこに暮らした。その土地こそぼくの生まれた港口村だ」。

今回制作された木製彫刻は、この神話がモチーフとなっている。

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