屏東の池上文庫―日台の絆を紡ぎ育む小さな日本語図書館

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権田 猛資 【Profile】

台湾南部の屏東県竹田鄉に「アジア最南端の日本語図書館」がある。池上一郎博士文庫という日本人の名を冠した小さな木造の図書館には、2万冊近い日本語書籍が所蔵され、実際に貸し出しも行なわれている。なぜ台湾の地に日本語書籍のみを扱う図書館が存在するのか?池上氏をめぐって日本と台湾を結ぶ交流秘話が語り継がれる一方、利用者減に直面する文庫の将来は大きな曲がり角を迎えている。

池上文庫の今後を考える

池上一郎博士文庫は来年、開館20周年を迎える。言い換えれば、日本語世代の人々も20年分、年を取ったことになる。当然、この間に鬼籍に入った人々も多く、台湾の日本語世代は年々減少している。前述の曾館長によると、近年、日本人観光客など訪問者は増えているが、図書館利用者は年々、少なくなっており、実際に書籍を借りに来る人はほとんどいないという。今後の展望について曾館長は「どこかに委託したり、建物を返却したりすることなく、日本人と台湾人の有志で協力して残していきたい」と話すが、図書館としての機能を維持していくには難しい現実がある。

また文庫の日本側理事を務める住安克人氏も「文庫を今の場所に永続的に残していきたい」と語っている。図書館利用者の減少という課題に対し、文庫を存続していくための方策が日台双方の関係者によって思案されている。

池上氏がこの世を去ってまもなく20年の月日がたとうとしている。今や、池上氏がなぜ、台湾・竹田に対して特別な思いを抱き、日本語書籍を寄贈しようと考えたのか、当人から直接伺うことはできない。しかし、池上氏の名を冠した小さな図書館は開館以来、着実に日台交流の友好拠点として確立されてきた。

台湾の日本世代の減少、すなわち図書館利用者の減少という現実を前に、図書館から日台交流を紡ぎ育む現場へと変化してきた池上一郎博士文庫をいかにして残していくか、関係者の苦悩とたゆまぬ努力は続いている。池上氏の業績に想像を巡らせ、今後の在り方を考えていかなければならない。

日台双方のボランティアスタッフ(筆者撮影)
ボランティアスタッフとして式典の運営に当たった日本語を学ぶ台湾人学生(筆者撮影)

【池上一郎博士文庫】

  • <住所>屏東縣竹田鄉履豐村豐明路23號
  • <開館日>
    平日   8:30~11:30・14:00~16:30
    土日   8:30~11:30
    休館日 月曜日及び祝日
  • 公式FB https://www.facebook.com/ikegamibunko

バナー写真=池上一郎博士文庫開館19周年を祝う式典で関係者らが記念撮影を行う(筆者撮影)

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台湾国立政治大學大学院修士課程。1990年生まれ。主に戦後の日台関係史を研究。また、バシー海峡戦没者慰霊祭や廣枝音右衛門氏慰霊祭の事務局長を務める。

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