屏東の池上文庫―日台の絆を紡ぎ育む小さな日本語図書館

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権田 猛資 【Profile】

台湾南部の屏東県竹田鄉に「アジア最南端の日本語図書館」がある。池上一郎博士文庫という日本人の名を冠した小さな木造の図書館には、2万冊近い日本語書籍が所蔵され、実際に貸し出しも行なわれている。なぜ台湾の地に日本語書籍のみを扱う図書館が存在するのか?池上氏をめぐって日本と台湾を結ぶ交流秘話が語り継がれる一方、利用者減に直面する文庫の将来は大きな曲がり角を迎えている。

図書館から日台交流の場へ

池上一郎博士文庫では、毎年、開館日の1月16日に合わせて式典が開催されている。開館19周年を祝う今年の式典は1月11日に執り行なわれた。 

池上一郎博士文庫で理事長を務める劉耀祖氏(筆者撮影)
池上一郎博士文庫で理事長を務める劉耀祖氏(筆者撮影)

式典では王陽宗理事ら文庫関係者から文庫の現状が報告されたほか、公益財団法人日本台湾交流協会高雄事務所所長の加藤英次氏や長年、文庫の取材を続ける台湾在住作家の片倉佳史氏らが挨拶し、開館19周年を祝った。また、地元に住む音楽講師の林和珍氏の指揮の下、『一月一日』や『台湾楽しや』など日本語歌謡を参加者全員で合唱した。林氏もまた日本語世代であり、以前は頻繁にバイクを運転し、文庫に足しげく通っていたという。 

当日は日本語世代の地元住民や台湾在住日本人、さらにはこの日のために日本から駆け付けた人々など100名を超す人々が集った。また地元の国立屏東大学日本語学科の学生など日本語を学ぶ高校生や大学生がボランティアスタッフとして運営にあたり、老若男女の日本人と台湾人の交流の場となっていた。式典後、前述の劉氏は「日本人と台湾人が家に帰って来たような表情をしており、日本時代に返ったようだ」と日本と台湾の時代を越えたつながりを感慨深い様子で語っていた。

池上一郎博士文庫の開館19周年を祝う式典(筆者撮影)
池上一郎博士文庫の開館19周年を祝う式典(筆者撮影)

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台湾国立政治大學大学院修士課程。1990年生まれ。主に戦後の日台関係史を研究。また、バシー海峡戦没者慰霊祭や廣枝音右衛門氏慰霊祭の事務局長を務める。

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