島々の悲歌——沖縄、琉球と台湾(前編)

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李 琴峰 【Profile】

那覇の街で台湾を想う

那覇の街をゆっくり歩くのは、その旅行が初めてだった。那覇の街を歩いていると、私はしばしば混乱に陥りそうになる――日本にいるのに、時たま台湾っぽい風景に出会うことがあるからだ。もちろん、県庁所在地の那覇では民家や商業施設、高層ビルなどはもはや東京と似た外観をしており、道路の名称を示す標示板も東京とほぼ変わらず、バスの降車ボタンやオレンジ色の手すりも東京にそっくりだった。しかし植生に目を向けると、あたかも台湾にいるかのような錯覚にとらわれてしまう。道端に乱雑に咲いている、真ん中が黄色の小さな白い花はセンダングサで(夜ホテルに帰るとズボンに小さな黒い棘がたくさん付着していることに気付く)、小さな柑橘系の果実を実らせている低木はシークヮーサーで、その中国語が「台湾香檬」なのだ。「玉陵(たまうどぅん)」の敷地で太い根を張り巡らせながら力強く生えているのはガジュマルで、それ以外にもゲットウやゲッキツの木、ブッソウゲの鮮やかな赤い花が散見される。首里城では庭園を含めてあちこちソテツが植わっており、首里城から徒歩10数分で着く御嶽(うたき)では樹齢200年以上の大アカギが生えていて、この「アカギ」もまた中国語「茄冬」に訳すと俄然台湾っぽさが滲み出る。波上宮(なみのうえぐう)の境内で偶然見つけた小さな赤い花が、子供のとき蕊(しべ)を抜き出して蜜を吸ったり、花を繋げてブレスレットにしたりしていたサンタンカなのだ。これらはみな東京ではなかなか見かけない植物で、遠い昔台湾の田舎で暮らしていた頃の記憶を呼び覚ます。

私は無理なこじつけをする気もなければ、台湾の影を見出すために沖縄を訪れたというわけでもない。ただ、首里城の正殿が面している御庭(うなー)に立っていると、どうしても台湾を思い出さずにはいられなかった。

玉陵の敷地内に植わっているガジュマル(筆者撮影)
琉球王国の歴代の王が眠る「玉陵」の敷地内に植わっているガジュマル(筆者撮影)

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李 琴峰LI Kotomi経歴・執筆一覧を見る

日中二言語作家、翻訳家。1989年台湾生まれ。2013年来日。2017年、初めて日本語で書いた小説『独り舞』で群像新人文学賞優秀作を受賞し、作家デビュー。2019年、『五つ数えれば三日月が』で芥川龍之介賞と野間文芸新人賞のダブル候補となる。2021年、『ポラリスが降り注ぐ夜』で芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。『彼岸花が咲く島』が芥川賞を受賞。他の著書に『星月夜(ほしつきよる)』『生を祝う』、訳書『向日性植物』。
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