人の数だけ正解がある「バイリンガル教育」、台湾の現場から

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近藤 弥生子 【Profile】

台北にある「台北日本語授業校」は、駐在員家庭や台湾人との国際結婚カップルの子どもに日本語を教える補習校だ。授業も含めて全てが保護者のボランティアによって運営されている。「海外で育っても親の母国語である日本語を継承させたい」という思いで行われるバイリンガル教育にスポットを当てた。

同じ境遇だからこそ分かり合える、悩みと喜び

「『台北日本語授業校』の良いところは、上の学年の人たちの姿を見ながら、同じクラスのメンバーと一緒に進級していけること。これは子どもだけではなく、保護者にとっても同じなんです」と服部さんは語る。

「例えば幼児クラスの場合、子どもを教室まで連れてきて、席に座らせるだけでもひと苦労です。小学校低学年になれば現地校との両立に、中高学年は習い事とのバランス、中学クラスになると高校受験という悩みに遭遇します。でも、保護者が全てを運営しているので、それぞれの学年の保護者たちの話題が自然と耳に入ってくるんですね。

教務もまずは幼児クラスから始めて、内容が次第に高学年向きになっていくので、慣れることができます。もちろん自分の子を含めた子どもたちを教えるというのは本当に難しくて、大学で学生に教えているのとは全く違う難しさがあります。外国人に日本語を教えるための教科書ではなく、生活レベルまでは日本語が使える子どもたちに向けて、日本の教科書を使って指導するのは、子どもたちの日本語使用状況や現地校での学習といった背景を理解している保護者が適役だと思うんです」

別々に取材したにも関わらず、Nさんも服部さんも全く同じことを口にしたのが印象的だった。

「子どもに『日本語を勉強しなさい』と言っても伝わらないけれど、『お母さんと一緒に頑張ろう』というメッセージは伝えられるし、子どもも私の姿を見てくれているんですよね。それに授業校は自分の子どもだけでなく、子ども全員を皆で見守りながら育てられる場所です」

「台北日本語授業校」の卒業式は、卒業生と保護者たちの涙であふれる。そこには苦楽をともにした仲間と分かち合える喜びと達成感があるからだ。

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台湾台北在住の編集・ライター。日本語・中国語(繁体字)でのコンテンツ制作を行う草月藤編集有限公司を主宰。雑誌『&Premium』で「台北の朝ごはん」「日用品探索」を連載中。プライベートでは二児の母。ブログ「心跳台灣」を運営(www.yaephone.com)。

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