人の数だけ正解がある「バイリンガル教育」、台湾の現場から

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台北にある「台北日本語授業校」は、駐在員家庭や台湾人との国際結婚カップルの子どもに日本語を教える補習校だ。授業も含めて全てが保護者のボランティアによって運営されている。「海外で育っても親の母国語である日本語を継承させたい」という思いで行われるバイリンガル教育にスポットを当てた。

台湾における日台バイリンガル教育にはアドバンテージがある

国立台湾大学で日本語教育に従事する一方、子どもを11年間「台北日本語授業校」に通わせ、2010年・11年度の運営委員長を務めた服部美貴さんにも話を聞いた。服部さんは、子どもが卒業した現在もアドバイザーに就任されている。

※「日台バイリンガル」とは、日本語と「台湾華語(台湾で使われている中国語)」のバイリンガルであるという意味合いで使用しています。

服部美貴さんの著書(筆者撮影)
服部美貴さんの著書(筆者撮影)

服部美貴さん

国立台湾大学文学院日本語文学系講師。2005年以来、台北日本語授業校の活動に保護者として参与。2010年度、2011年度同校運営委員長。台湾各地の日本語継承活動団体をつなぐ台湾継承日本語ネットワークの代表を2012年より務める。著書に『台湾に生まれ育つ台日国際児のバイリンガリズム』(国立台湾大学出版中心、2015年)。

実は台湾での日台バイリンガル教育は有益な情報が少なく困難であると思い込んでいた筆者だったが、服部さんの言葉にはっとした。

「台湾の現地校で習う中国語(台湾華語)の『繁体字』は、日本語の漢字よりもさらに難しく複雑です。海外育ちであっても漢字に抵抗がないのは、日本語を学ぶうえで、大きなアドバンテージがあると言えるんです」

筆者も含めた日本人保護者が頭を悩ませるのが、台湾の詰め込み教育だ。筆者が暮らす台北では、小学1年生からどっさり宿題が出される。担任教師の方針にもよるが、「親が見てもかわいそうになるくらいの量」というケースもある。小学生が夜遅くまで宿題をする姿は食堂やカフェでもよく見かける街角の光景だ。

宿題の大半を占めるのが、漢字の書き取りだ。例えば、台湾の小学1年生で習う漢字に「聲(声)」「邊(辺)」などがある(カッコ内は日本の漢字)。中国大陸では漢字が簡略化された「簡体字」が用いられているが、台湾ではこの複雑な「繁体字」を学ぶ。

ちなみに、台湾の小学生が6年間で覚える漢字は約2000〜2500字。一方、日本の小学校6年間で習うのは1026文字(2020年度からの新学習指導要領)。日本語はひとつの漢字に対して音読訓読があるため、文字数だけで比較することはできないが、台湾では、覚えなければならない漢字の量が倍だ。

筆者の子どもが現地校で小学一年生の際、実際に使用していた国語(台湾華語)の教科書(筆者撮影)
筆者の子どもが現地校で小学一年生の際、実際に使用していた国語(台湾華語)の教科書(筆者撮影)

服部さんは続ける。「『自分が習ったように日本語を身につけさせたい』という親心があっても、現地校に通う生活にオプションとして日本語学習を加えるというのは容易なことではありません。ただ、一見は無機質に思える台湾の漢字学習も、日本語学習に活きていることを知っていただけたら」

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