ラグビーワールドカップ2019日本大会、キックオフへ

ラグビー日本代表:4戦全勝の軌跡と南ア戦勝利へのシナリオ

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大友 信彦 【Profile】

自国開催のラグビーW杯で、プールステージA組を4戦全勝で1位通過し、2015年大会に続いて世界を驚かせた日本代表。楽な勝利は一つもなかった苦闘を振り返り、初進出となったファイナルステージの戦いを占う。

因縁の相手との死闘

反撃ののろしとなるトライを生んだ福岡堅樹の鮮やかなオフロードパス=2019年10月13日、横浜国際総合競技場(時事)
反撃ののろしとなるトライを生んだ福岡堅樹の鮮やかなオフロードパス=2019年10月13日、横浜国際総合競技場(時事)

グループリーグ最後の相手はスコットランド。前回W杯では南アフリカ撃破から中3日の強行日程で対戦し、唯一の敗戦を喫した因縁の相手だ。大型台風の襲来で実施が危ぶまれた試合は、天候回復を受けて横浜国際総合競技場で決行された。

前半6分、スコットランドのSOフィン・ラッセルが先制トライ。前回W杯で日本キラーとなったSHグレイグ・レイドローが冷静にコンバージョンを決める。
だが日本は、7点を先行されても動じなかった。キックオフで敵陣に入ると、一切のキックを封印して地上戦を遂行。17分、鮮やかな連続展開で抜けた福岡が、相手タックルでバランスを崩しながら松島へオフロードパスを通す。「フェラーリ」の異名を取る日本のツートップによる競演が、スリリングでセンセーショナルなトライを生み、7−7の同点。

この魅惑的なトライが、試合の流れを日本に引き寄せた。
25分には松島のビッグゲインを起点に、HO堀江翔太、LOジェームズ・ムーア、トゥポウが鮮やかなオフロードパスをつなぎ、PR稲垣啓太がトライ。39分にはラファエレが絶妙のキックパスを転がし、猛ダッシュした福岡がトライ。21−7で折り返した後半も、2分に福岡がタックルで相手からボールを奪い、そのまま50メートルを独走してトライ。一気に28−7まで差を広げた。

スコットランドも意地の2トライを返すが、日本は粘り強いタックルと素早いリアクションで追加点を許さない。終盤の日本は自陣にくぎ付けとなって防御に徹し、最後は密集でのターンオーバーから、タイムアップを待ってFB山中亮平がボールをタッチへ蹴り出した。

日本はスコットランドの終盤の猛攻に耐え切って雪辱を果たし、初めての決勝トーナメント進出を決めた。

次なる勝利はもはや番狂わせではない

プールステージ得点ランク1位の田村優のキックが南アフリカ戦の勝敗を分けるかもしれない=2019年9月20日、東京スタジアム(時事)
プールステージ得点ランク1位の田村優のキックが南アフリカ戦の勝敗を分けるかもしれない=2019年9月20日、東京スタジアム(時事)

「この試合は私たちだけのための試合じゃなかった」とリーチは言った。

「台風で困っている人がたくさんいる。この試合の準備のため、たくさんの人がスポンジで水を吸ったり、床や椅子を拭いたり、準備をしてくれた。こういう日に試合をすることは日本の人にとって必要なんだと話して試合に臨みました」

もしかしたらリーチは、いくつものアクシデントや予想外の展開に襲われながらも、真摯に課題と向き合い勝利を重ねてきた日本代表の足跡を重ね合わせていたのかもしれない。
そして「ここからは未知の世界です」と付け加えた。

ラグビーW杯は、プールステージでは20カ国が4プールに分かれて各国のラグビー文化をぶつけあうが、取りこぼしが許されないファイナルステージでは全く違うタフな戦いが待っている。

初戦の相手は南アフリカだ。4年前は日本がラストプレーで逆転トライを奪って34−32で勝利し、世界のスポーツ史上最大の番狂わせと呼ばれた。
今大会の南アは初戦でニュージーランドに敗れてB組2位となったが、4試合でプールステージ最多の27トライを挙げている。大型でパワフルなマピンピ、小柄ながら驚異的な加速とキレのコルベという両ウイングの決定力は要注意だ。

対する日本も、松島が大会トライ数1位タイの5トライ、福岡が4トライで3位タイと、「フェラーリ」の両エースが絶好調だ。
ただし、トーナメントとなるファイナルステージではトライ数やBPは関係ない。点数で相手を上回ることが全てだ。プール戦4試合で9コンバージョン10PGの48得点を挙げ、得点ランキング1位の田村のキックが勝負のカギを握るかもしれない。

(バナー写真:スコットランドを破った瞬間、喜びを爆発させる日本代表の選手たち=2019年10月13日、横浜国際総合競技場 時事)

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大友 信彦ŌTOMO Nobuhiko経歴・執筆一覧を見る

スポーツライター。1962年、宮城県気仙沼市生まれ。早稲田大学卒業。東京中日スポーツでラグビー記者として活動する傍ら、『Sports Graphic Number』『ラグビーマガジン』などに執筆。ラグビーに関する著作も多数で、主な著書に『釜石の夢』(講談社文庫)、『読むラグビー』『不動の魂』(実業之日本社)など。

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