ラグビー日本代表:4戦全勝の軌跡と南ア戦勝利へのシナリオ
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ラグビーの日本代表ってこんなに強かったの?
どれだけの人が、そんな問いを発し、あるいはつぶやいただろう。
ラグビー伝統国以外で開催された初めてのワールドカップ(W杯)。ホスト国の日本はプールステージ(1次リーグ)A組の4試合を見事全勝で通過し、史上初めてベスト8進出を決めた。
これ以上ない結果だが、その歩みは決して順風満帆ではなかった。
開幕戦の重圧を解き放った松島幸太朗の豪脚
幕開きは東京スタジアムのロシア戦。日本代表を覆っていたのは極限の緊張だった。
初めての自国開催。ロシアはA組で最もランキングが低く、欧州予選で1度は敗退しながら上位国の失格による繰り上げで出場が決定した、いわば絶対に勝たなければならない相手だ。
それだけではない。前回のワールドカップで日本が決勝トーナメント進出を逃した原因は、1試合4トライ以上で得られるボーナスポイント(BP)を1度も獲得できなかったことにあり、後に控える強豪との戦いを考えれば、BP付きの勝ち点5がノルマとみられていた。
いくつもの要因が重圧となって日本代表の選手たちを覆う中、始まった初戦。大会開幕を告げるキックオフの歓声は、すぐに悲鳴に変わった。
ロシアが蹴ったキックオフを主将のFLリーチマイケルが捕り損ね、いきなり自陣ゴール前のピンチ。そして4分、相手キックをFBウィリアム・トゥポウが落球し、走り込んだロシアのWTBゴロスニツキーにあっさりと先制トライを奪われてしまう。
不穏な空気を振り払ったのは、前回W杯でも活躍したWTB松島幸太朗の豪脚だった。
11分にCTBラファエレティモシーの後ろ手からのパスを捕って今大会の日本代表初トライを決めたのを手始めに、38分に逆転トライ。後半6分のFLラブスカフニのトライを挟み、後半28分にはW杯で日本代表初のハットトリックとなる3本目のトライを決めた。
序盤に苦しみながらも日本は4トライを挙げて30−10でロシアを破り、しっかりと勝ち点5を獲得した。
精神的支柱・リーチ主将を控えにまわす大胆策
2戦目の相手はアイルランド。過去3年間で2度にわたってニュージーランドを破り、昨年は欧州最強国を決めるシックスネーションズで全勝優勝。日本戦直前は2位に後退していたが、W杯開幕時は世界ランキング1位に君臨していた強豪だ。初戦では難敵とみられたスコットランドに27−3で圧勝していた。
日本はリーチ主将を控えにまわすという大胆な策で臨んだ。
ロシア戦のパフォーマンスが良くなかったこと、W杯前の南アフリカ戦で負傷したNO8アマナキ・レレイ・マフィが復調したこと、他にもリーダーシップを発揮できる選手が育ったことを受け、リーチを後半の勝負所で投入しようという作戦だった。
初戦に続き、静岡・エコパスタジアムも超満員となった。アイルランドが序盤に2トライを挙げ、3-12とリードされる。「やはり格上か……」の空気が漂っていた前半30分、肋軟骨を痛めたマフィに代わってリーチがピッチに入ると試合の様相は一変した。
ボールを持てばガムシャラに前に出る。ディフェンスでは体を張ったタックルを見舞い、すぐに起き上がっては連続タックル。リーチがピッチに入ってからの8分間で、SO田村優が2ペナルティーゴール(PG)を決め9−12と追い上げる。後半19分には、同じく途中出場のWTB福岡堅樹のトライで逆転。31分には田村のPGで19−12と引き離した。
そして残りゼロ分、日本が相手ゴール前まで攻め込んだところでPR中島イシレリがノックオン。しかしアイルランドは、7点差を追いつくためのカウンターアタックを放棄し、ボールを蹴り出して試合を終わらせた。目的は7点差以内の敗戦で得られるBPの獲得。1週前まで世界ランクの頂点に君臨した強豪が、日本相手に負けを受け入れた瞬間だった。
ロスタイムの劇的なトライでボーナスポイント獲得
続く3戦目の相手は、4年前のイングランド大会でも3戦目に対戦したサモア。開幕時点で世界ランク16位と低迷していたが、W杯では過去2度にわたって8強入りしている強敵だ。愛知・豊田スタジアムで開催されたこの試合、サモアのプレッシャーの前に日本は波に乗れず、序盤はPGの応酬となった。
9−6で迎えた前半27分、先発に戻ったリーチのタックルでボールを奪い、ラファエレがトライ。このサモア生まれの日本代表が母国から奪ったトライは、日本の攻撃を加速させた。後半13分にはNO8姫野和樹が出身地での試合に華を添える豪快なトライを決め、後半35分には福岡、ロスタイムの44分には松島が劇的なトライ。
序盤の重い展開を跳ねのけ38−19で勝利した日本は、計4トライでボーナスポイントを獲得して3戦全勝。勝ち点14とし、8強進出へ王手をかけた。
因縁の相手との死闘
グループリーグ最後の相手はスコットランド。前回W杯では南アフリカ撃破から中3日の強行日程で対戦し、唯一の敗戦を喫した因縁の相手だ。大型台風の襲来で実施が危ぶまれた試合は、天候回復を受けて横浜国際総合競技場で決行された。
前半6分、スコットランドのSOフィン・ラッセルが先制トライ。前回W杯で日本キラーとなったSHグレイグ・レイドローが冷静にコンバージョンを決める。
だが日本は、7点を先行されても動じなかった。キックオフで敵陣に入ると、一切のキックを封印して地上戦を遂行。17分、鮮やかな連続展開で抜けた福岡が、相手タックルでバランスを崩しながら松島へオフロードパスを通す。「フェラーリ」の異名を取る日本のツートップによる競演が、スリリングでセンセーショナルなトライを生み、7−7の同点。
この魅惑的なトライが、試合の流れを日本に引き寄せた。
25分には松島のビッグゲインを起点に、HO堀江翔太、LOジェームズ・ムーア、トゥポウが鮮やかなオフロードパスをつなぎ、PR稲垣啓太がトライ。39分にはラファエレが絶妙のキックパスを転がし、猛ダッシュした福岡がトライ。21−7で折り返した後半も、2分に福岡がタックルで相手からボールを奪い、そのまま50メートルを独走してトライ。一気に28−7まで差を広げた。
スコットランドも意地の2トライを返すが、日本は粘り強いタックルと素早いリアクションで追加点を許さない。終盤の日本は自陣にくぎ付けとなって防御に徹し、最後は密集でのターンオーバーから、タイムアップを待ってFB山中亮平がボールをタッチへ蹴り出した。
日本はスコットランドの終盤の猛攻に耐え切って雪辱を果たし、初めての決勝トーナメント進出を決めた。
次なる勝利はもはや番狂わせではない
「この試合は私たちだけのための試合じゃなかった」とリーチは言った。
「台風で困っている人がたくさんいる。この試合の準備のため、たくさんの人がスポンジで水を吸ったり、床や椅子を拭いたり、準備をしてくれた。こういう日に試合をすることは日本の人にとって必要なんだと話して試合に臨みました」
もしかしたらリーチは、いくつものアクシデントや予想外の展開に襲われながらも、真摯に課題と向き合い勝利を重ねてきた日本代表の足跡を重ね合わせていたのかもしれない。
そして「ここからは未知の世界です」と付け加えた。
ラグビーW杯は、プールステージでは20カ国が4プールに分かれて各国のラグビー文化をぶつけあうが、取りこぼしが許されないファイナルステージでは全く違うタフな戦いが待っている。
初戦の相手は南アフリカだ。4年前は日本がラストプレーで逆転トライを奪って34−32で勝利し、世界のスポーツ史上最大の番狂わせと呼ばれた。
今大会の南アは初戦でニュージーランドに敗れてB組2位となったが、4試合でプールステージ最多の27トライを挙げている。大型でパワフルなマピンピ、小柄ながら驚異的な加速とキレのコルベという両ウイングの決定力は要注意だ。
対する日本も、松島が大会トライ数1位タイの5トライ、福岡が4トライで3位タイと、「フェラーリ」の両エースが絶好調だ。
ただし、トーナメントとなるファイナルステージではトライ数やBPは関係ない。点数で相手を上回ることが全てだ。プール戦4試合で9コンバージョン10PGの48得点を挙げ、得点ランキング1位の田村のキックが勝負のカギを握るかもしれない。
(バナー写真:スコットランドを破った瞬間、喜びを爆発させる日本代表の選手たち=2019年10月13日、横浜国際総合競技場 時事)