独身大国ニッポン:生き抜く鍵は「人とつながる力」

社会

荒川 和久 【Profile】

2040年、日本では人口の約半分が独身者(ソロ)になると予測されている。筆者はこうしたソロ社会の在り方は江戸時代に似ており、なんら悲観することはないと言う。

「所属するコミュニティー」から「接続するコミュニティー」へ

今後、社会の個人化はいや応なく進む。社会学者ジグムント・バウマン(※3)が言ったように、安定したソリッド社会から流動性の高いリキッド社会へと移行するだろう。地域や職場や家族といった、かつてのコミュニティーは融解し、「集団の中に属していればいい」という安心神話も崩壊する。集団の中にいても、いや、むしろ周りに大勢の人がいるにもかかわらず、言いようのない疎外感を抱いてしまう若者も多いと聞く。状態として1人である物理的孤独より、心が独りぼっちになってしまう心理的孤立こそ問題視すべきだ。安心は「所属」の中にはもう用意されていないのだ。

独身5割、1人暮らし4割のソロ社会において、必要になってくるのは、各個人が「ソロで生きる力」を身につけることだろう。それは、決して誰とも関わらず、孤高で生き抜くサバイバル能力ではない。逆説的だが、「ソロで生きる力」とは「人とつながる力」だ。

人とつながると言うと、どうしても「友達を作る」ことだと考えがちだが、決してそうではない。どこかのコミュニティーに所属すればいいということでもない。安心を得るために、無理に所属しなくてもいい。これから大切になるのは、「所属しなくても、誰かと一瞬接続することだけでも安心が得られるのだ」と気付くことではないか。

「所属するコミュニティー」から「接続するコミュニティー」へ、人とコミュニティーの関係性が変わっていくことだろう。人は自分と同じ価値観の人や自分を認めてくれる人とつながりたがる。それは大事なことだが、そうした関係性だけに頼りきってしまうと、結果的に自分自身を窮屈にしてしまう。あえて違う価値観や考え方、違う年齢の人と接続する機会をつくる。そこで生まれる違和感こそが大事なのだ。

これは、米国の社会学者マーク・グラノヴェッター(※4)の言う「弱い紐帯(ちゅうたい)の強さ」とも通じる。強い絆の間柄より、有益で新規性の高い刺激をもたらしてくれるのは、弱いつながりの人たちの方なのだ。

これからのコミュニティーとは、囲われた内側の安心ではなく、開かれた外へ通じる接続点となるだろう。それが「接続するコミュニティー」の概念なのだ。コミュニティーは、人間の神経伝達系統におけるシナプスのような役割を果たす。一つの接続点の向こう側には、大勢の見知らぬ人たちとのつながりが広がっている。ネットの活用で、全世界とつながることも可能になった。

接続点を経由した人とのつながりは、思いがけない自己の活性化を生む。それは、いわば、家族や職場だけ、という城壁に囲まれた「不自由だけど安心な檻(おり)」からの解放でもある。家族や職場だけへの唯一依存からの脱却であり、自己の社会的役割の多重化でもある。独身者に限らず、この視点は既婚者にも必要だろう。

個人と個人とが点でつながり、それがやがて線という糸となり、最終的には糸が交錯して大きな布が編み上がる。それこそが、個人化する社会における「新しい家族の再構築」なのだ。たとえ血がつながっていなくても、一つ屋根の下に住んでいなくても、考え方や価値観を同じくする者同士がどこかでつながり、「お互いさま」と支え合う社会へ。それが、私が提唱している「拡張家族」の未来像だ。

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(※3) ^ ポーランド出身の社会学者。英国リーズ大学、ワルシャワ大学の名誉教授(1925〜2017)

(※4) ^ スタンフォード大学社会学部教授(1943〜)

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独身研究家。早稲田大学法学部卒業後、博報堂入社。独身生活者の消費行動などを研究する「博報堂ソロもんLABO」を立ち上げる。独身研究の第一人者として、テレビ・新聞・雑誌など国内外の幅広いメディアで活動中。著書に『ソロエコノミーの襲来 』(ワニブックスPLUS新書、2019年)、『超ソロ社会 』(PHP新書、2017年)、『結婚しない男たち』(ディスカバー携書、2015年)など。

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