「先輩」の里帰りを温かく迎える台湾人——建成小学校創立100周年から見えたこと

暮らし 歴史 国際交流

権田 猛資 【Profile】

2019年に創立100周年を迎えた台湾台北の旧建成小学校。同窓生らが母校を訪問し、在校生と交流した。日台の複雑な戦後史に翻弄されながらも、彼らは故郷への思いを持ち続けていた。

日本統治時代の歴史への知的好奇心

「里帰り」期間中、建成国民中学の講堂で、往年の暮らしぶりを若い世代に伝える「お話会」も催された。台湾在住の作家の片倉佳史さんがコーディネーターを務め、建成小卒業生である日本人5人、台湾人2人が登壇。当時の写真をプロジェクターで写し出しながら、印象に残っている授業や学校のプールの思い出、当時の遊びや台北市内の町並みなどについて話を弾ませた。

平日の夜にも関わらず、150人以上の地元住民らが集まり、台湾で生まれ育った「大先輩」の言葉に耳を傾け、熱心にメモを取る人の姿もあった。会が終わるや、登壇者のところに駆け寄って懸命に日本語で質問する人もいて、自分達の土地の歴史をもっと知りたいという知的好奇心にあふれていた。

「お話会」の様子(片倉佳史氏提供)
「お話会」の様子(片倉佳史氏提供)

なぜ、台湾人は今、日本統治時代の歴史を熱心に学ぼうとしているのであろうか。この疑問を黄校長に投げかけてみると、台湾が戦後に不自由な時代を強いられた後に、民主化を成し遂げた背景があると語っていた。言論の自由を奪われ、客観的な歴史観を持つことが許されなかった時代が続いた後、自らの力で民主化を勝ち得た台湾は、今、ようやくさまざまな観点で歴史を論じることができるようになった。日本統治時代についても、郷土史として客観的な評価を下していく土壌ができつつある。

台湾の歴史は日本人も決して無縁ではない。日本人がより深く台湾について知り、その歴史と文化を理解することで、日本人と台湾人はともに自由に、多元的に、双方について熱く論じ合えるのではないかと筆者は思っている。

「里帰り」企画の運営のため、「建成会」元会長の故・岡部茂さんの孫の岡部千枝さんを中心に、日本から有志のボランティアが駆け付けた。現・建成会会長を務める第18回卒業生の新井基也さんは、台湾は自身にとって変わることのない「ふるさと」であり、3年後の再訪が楽しみだという。

台湾に生まれ育ち、望郷の念を抱き続ける「先輩」の里帰りは、また3年後に行なわれる。

「ふるさと」から元気をもらった建成会の同窓生ら(片倉佳史氏撮影)
「ふるさと」から元気をもらった建成会の同窓生ら(片倉佳史氏撮影)

バナー写真=建成小学校同窓会「建成会」里帰り記念撮影(片倉佳史氏撮影)

この記事につけられたキーワード

台湾 湾生 二二八事件 日本統治時代 建成小学校

権田 猛資GONDA Takeshi経歴・執筆一覧を見る

台湾国立政治大學大学院修士課程。1990年生まれ。主に戦後の日台関係史を研究。また、バシー海峡戦没者慰霊祭や廣枝音右衛門氏慰霊祭の事務局長を務める。

このシリーズの他の記事