ラグビーワールドカップ2019日本大会、キックオフへ

カンペイ、花園、企業スポーツ:極東の島国で発展した独自のラグビー文化

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大友 信彦 【Profile】

ラグビーW杯2019において「多様性」をうたう日本代表だが、極東の島国だからこそ発展したオリジナルな長所が日本のラグビーには確実にある。海外のラグビー関係者も一目置く、独自のラグビー文化を読み解く。

「僕は日本のラグビーが大好きなんだ」

そう言ったのは、昨季(2018-2019)のトップリーグで、神戸製鋼コベルコスティーラーズを15シーズンぶりとなる復活優勝に導いた名将、ウェイン・スミス総監督だった。

現在は神戸製鋼コベルコスティーラーズで総監督を務めるウェイン・スミス。1957年生まれの62歳 写真:大友信彦
現在は神戸製鋼コベルコスティーラーズで総監督を務めるウェイン・スミス。1957年生まれの62歳 写真:大友信彦

選手時代はニュージーランド代表(通称オールブラックス)にも選出されたウェイン・スミスは、ヘッドコーチとしてカンタベリー・クルセーダーズをスーパー12(現スーパーラグビー)の常勝軍団に育て上げ、3連覇に導いた。
2000年以降はヘッドコーチ、セレクター、アシスタントコーチとして、途切れることなくオールブラックスの指導に関わってきた、ラグビー王国の背骨と呼ぶべき人物である。
カンタベリーで育ち、オールブラックスの大黒柱としてワールドカップ2連覇を支えたリッチー・マコウやダン・カーターは、直系の教え子にあたる。

その人物が「日本のラグビーを深くリスペクトしている」と言い切るのだ。

「僕は、子どもだった1960年代から日本のラグビーが好きなんだよ。その頃、僕の育ったカンタベリーに、日本からデミ・サカタという選手がやって来て、素晴らしいプレーをみせていたんだ。彼は日本のやり方をカンタベリーに、ニュージーランドに持ち込んだんだ」

型破りで斬新な日本オリジナルのプレー

子ども時代のウェインを魅了したのは、1968年にニュージーランド遠征をした日本代表。そして翌年、カンタベリー大学に「留学」してきた「デミ・サカタ」こと坂田好弘が持ち込んだ、斬新なプレーの数々だった。

例えばラインアウト。
それまでは、ボールがタッチラインを出た場合、両チームのフォワードがズラリと(たいていは7人ずつ)並んだ真ん中にボールを投げ入れ、跳び上がって取り合うのが普通だった。しかし、身長の低い日本チームは外国チームに太刀打ちできない。

当時の日本代表を率いていた大西鐵之祐(てつのすけ)監督は、ルールブックには「双方の2人以上が並んだ真ん中にボールを投げ入れ」と書いてあることに着目。
ラインアウトに並ぶ選手を最小限の「2人」にしてスペースをつくり、投入するスロワーと呼吸を合わせて前後に動くことで相手のマークを外す「ショート・ラインアウト」を開発した。高さで勝負するのではなく、日本選手の俊敏さを生かしてボールを確保できる上に、次の攻撃にも人数を掛けられるのだ。

もう一つ有名なのは、「カンペイ」と呼ばれるバックスのサインプレー。
従来は相手キックに備える守備的存在だったフルバックを、バックスのライン攻撃に参加させ、相手のマークを外して突破するプレーだ。
大西が早稲田大学の監督時代に、「何でもよいからトライの取れる方法はないのか?」と学生を集めて問い掛けた際、フルバックの中村貞雄選手が考案。早大が夏合宿を張っていた長野県の菅平(すがだいら)で誕生したことから、「菅平」を音読みした「カンペイ」と呼ぶようになった。

1968年のニュージーランド遠征でオールブラックスJr.を撃破した日本代表の面々。2列目左端が坂田好弘氏 写真:日本ラグビーフットボール協会
1968年のニュージーランド遠征でオールブラックス・ジュニア(23歳以下代表)を撃破した日本代表の面々。2列目左端が坂田好弘氏 写真:日本ラグビーフットボール協会

ウェイン少年が心を躍らせた日本代表は、まさしくこの2つのオリジナルな武器を携えてニュージーランドを訪れ、数々のトライを挙げてラグビー王国の強豪から勝利を奪ったのだ。

「素晴らしいイノベーションだった。当時は見たこともない、型破りなプレーだったけど、日本チームの強みを生かしたプレーだったね」

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大友 信彦ŌTOMO Nobuhiko経歴・執筆一覧を見る

スポーツライター。1962年、宮城県気仙沼市生まれ。早稲田大学卒業。東京中日スポーツでラグビー記者として活動する傍ら、『Sports Graphic Number』『ラグビーマガジン』などに執筆。ラグビーに関する著作も多数で、主な著書に『釜石の夢』(講談社文庫)、『読むラグビー』『不動の魂』(実業之日本社)など。

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