日本アニメの潮流

ガンダム生誕40周年:世代を超えて語り継がれる古典アニメとは

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1979年のテレビ放送開始から40年を迎えた『機動戦士ガンダム』。ロボットアニメに革命をもたらした記念碑的作品で、その人気は今も衰えることがない。

『機動戦士ガンダム』の放送開始40周年に当たる今年は、さまざまな記念イベントが開催中だ。単に作品の生誕を祝うのみならず、日本の社会や生活に広く結びついているものが多く、過去のアニバーサリーとは一線を画している。中でも「G-SATELLITE 宇宙へ」というプロジェクトは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と東京大学が連携して2020年の東京五輪・パラリンピックへの応援メッセージを宇宙から送るという点で、ガンダムの示した「宇宙時代のビジョン」を現実にフィードバックしたものとして注目を集めている。そこにはガンダムを糧に未来感覚を養い、成長して実績を上げてきた産学関係者の熱い視線と、40年という歳月の重みが感じられる。

G-SATELLITE 宇宙へ」プロジェクトの記者会見を終え、気勢をあげる『機動戦士ガンダム』の富野由悠季監督(左から3人目)ら=2019年5月15日、東京都千代田区(時事)
「G-SATELLITE 宇宙へ」プロジェクトの記者会見を終え、気勢をあげる『機動戦士ガンダム』の富野由悠季監督(左から3人目)ら=2019年5月15日、東京都千代田区(時事)

「G-SATELLITE 宇宙へ」プロジェクトで人工衛星に搭載されるガンダムの模型を見る野口聡一さん(手前左)と金井宣茂さん(同右)=2019年9月4日、静岡市葵区(時事)
「G-SATELLITE 宇宙へ」プロジェクトで人工衛星に搭載されるガンダムの模型を見る野口聡一さん(手前左)と金井宣茂さん(同右)=2019年9月4日、静岡市葵区(時事)

これほど大きな影響力を持つ『機動戦士ガンダム』とは、どんな作品なのだろうか。ここでは第1作の原点に立ち戻ることで、本質を探っていきたい。

アニメファンの成長と成熟

日本の商業アニメーション(アニメ)は、長い年月をかけて作品のバリエーションが豊かになり、現在も進化を続けている。その発展の大きなきっかけの一つが『機動戦士ガンダム』である。

アニメは長らく「子ども向け」とされてきた。1963年、30分テレビシリーズの『鉄腕アトム』をきっかけに、アニメづくりが定常的に量産されるようになってもしばらくはそう思われてきた。その状況を激変させたのが、74年のテレビアニメ『宇宙戦艦ヤマト』だった。放送された当時は低視聴率だったが、77年に公開された再編集映画が大ヒットし、視聴者層が成長してティーンエージャーとなったことがマスコミにも取り上げられた。見ごたえのある豊かな内容が、アニメ作品に求められる時代となったのである。

日本では漫画原作のアニメが多かったが、78年に月刊誌「アニメージュ」が創刊されたことで状況が変化する。専門性の高い記事が載るようになったことで、それまで「漫画家のアシスタントたちがアニメを制作している」かのように漠然と思われていたのに対して、「アニメ専門の会社があって映像クリエーターたちが共同で作業している」という事実がより正確に周知されるようになったからだ。その結果、アニメの世界には、漫画とは違った映像独自のクリエイションの作法や技法があることをアニメファンは知った。そしてオリジナリティーのある創作を志すスタッフが大勢いて、明確な考え方を持ってキャラクターやストーリー作りが行われていることが次第に明らかになっていった。こうした中で「もっとすごい作品はないか?」とファンの期待が高まった79年に、『機動戦士ガンダム』が登場した。それはまさにベストタイミングだった。

同作は漫画や小説など既出の原作を持たないオリジナル・アニメである。原作・総監督は富野由悠季、キャラクターデザインとアニメーションディレクターは安彦良和、メカニカルデザインは大河原邦男と、メインはアニメクリエイターで固められている(敬称略)。それゆえ「アニメ映像でしか得られない興奮、未知の物語への驚き」が生まれ、ファンは熱狂した。複雑に編み上げられた濃厚な世界観と物語は読解に骨の折れるものだったが、その難解さも含めてファンは楽しんだ。

この状況を後押ししたのは普及の拡大期にあった家庭用ビデオデッキだ。一度見ただけでは分かりにくい伏線や細部も検証できるようになり、友人に薦めることも可能となった。これは80年代中盤の「ビデオソフト販売時代」の先駆けである。その意味においても、『機動戦士ガンダム』は時代の節目にふさわしい、シンボリックなアニメ作品だった。

リアルな世界観に基づくロボットアニメ

前例のない濃厚な作品づくりの中核は、やはり富野由悠季監督だった。世界観と物語をゼロからつくりあげ、クリエイターの成果物をまとめて作品に仕上げていった様子は、2019年6月から開催中の美術館主導の展覧会「富野由悠季の世界」(福岡市美術館ほか)の圧倒的な物量からも伝わってくる。そもそも『機動戦士ガンダム』は主役ロボットの合金玩具を販売促進する目的の作品だった。そこには「玩具さえ売れればいい」という、物語としての自由度があった。富野監督はそのチャンスを「作家性を発揮する場」として捉え、最大限に利用したのだ。

富野由悠季監督(時事)
富野由悠季監督(時事)

最初は「これまでのロボットアニメをリアリズムで分解し、再定義する」というアプローチから始まった。一種の「再発明」である。発想の原点は「全長20メートルクラスの人型マシンが成立するのは、巨費を投入した兵器しかない」であった。それ以前のロボットアニメは、謎の敵対勢力(多くは宇宙人)が攻めてきて、科学者がひそかに準備していた合体ロボットで迎撃する……というスタイルが多かった。富野監督はそれに疑問符をつけたのだ。

戦争があるなら、敵もまた人間である。過去のロボットアニメとは違うことを示すため、巨大人型兵器を「モビルスーツ」と呼んだ。質量から考えて、運用は宇宙空間になるはずだ。現在の科学力の延長でそれが可能となるのは、地球と月の近傍に限られる。「宇宙対地球」という戦争の対立軸を考えたところから、米国のジェラルド・オニール博士によって提唱され、実現可能性の高い未来の構造物「スペースコロニー(宇宙植民地)」が舞台として採用された。

「ガンダムの世界観」は、こうした現実味あふれる「連想」に基づいて編み上げてある。だから視聴者は「信じるに足るリアリティーの強度」を映像から感じ取ったのだ。

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