孫文と香港と日本

歴史

吉冨 拓人 【Profile】

2019年初夏、逃亡犯条例改正に問題に端を発した抗議活動が盛んになり始めた香港で、孫文ゆかりの地を巡った。「革命の父」とも呼ばれる孫文が、今の時代に生きていたら、何を考えたであろうか。

革命のアジトと同じ場所にある同じ名のレストラン

孫文記念館から坂道を下り、次の目的地を目指す。この日も午後からデモが予定されており、黒い服を着た若者の流れが駅に向かっている。現在、香港は混乱が続いている。「逃亡犯罪人条例」反対運動に始まった民衆の抗議活動は、条例が事実上の廃案になった後も衰えることがなく、警察との衝突を繰り返す中で、落としどころが見つからない状況に陥っている。

今回の抗議運動の一つの特徴は、明確なリーダーがいないことだ。「Be water」を行動指針とし、ネット上でつながった若者らが水のように融通無碍(むげ)に運動を展開している。ただ水は洪水や津波のように圧倒的な破壊力を発揮することがある一方で、更地から新たな街を作り上げることはできない。抗議者は「光復香港、時代革命」というスローガンを掲げているが、革命の行き着く先は何なのか、ビジョンは共有されているのだろうか。

孫文ツアーの最後の訪問地は、「興中会」のアジトがあったとされる士丹頓街(Staunton Street)11号にこのほどオープンした中華レストラン、その名も「興中会」。店内は狭いが、スタイリッシュな内装で居心地がよい。孫文がここで秘密の相談をしていたのかと思うと、一見普通のチャーハンも味わい深く感じられる。ほろ苦いミルクティーを飲みながら、孫文が今の香港に生きていればどのような行動をとったのだろうかと思いを巡らせる。

中華レストラン「興中会」(筆者撮影)
中華レストラン「興中会」(筆者撮影)

※内容は全て筆者自身の観点に基づく私見であり、何ら外務省及び総領事館の意見を代表するものではない。

バナー写真=香港大学の孫文像(筆者撮影)

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吉冨 拓人YOSHITOMI Takuto経歴・執筆一覧を見る

横浜国立大学大学院国際開発研究科(博士課程)修了。博士。専門は中華圏の政治・経済。在中国日本大使館で専門調査員、外務省で専門分析員等を務める一方、名古屋市立大学、二松学舎大学、横浜国立大学などで非常勤講師。2018年から在香港日本総領事館専門調査員として、香港在住。

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