井上尚弥: “モンスター”と呼ばれる日本ボクシング界のエース

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プロボクサーになってから18戦全勝の快進撃を続ける井上尚弥。その圧倒的な強さが世界で注目される中、「真のバンタム級王座」をかけて決勝戦に挑む。

無敗のまま「真の世界一」を目指す

こうしてボクシングに打ち込んだ井上が、その実力を世間に知らしめるようになるのは高校生になってからだ。国内の大会を総なめにする勢いで勝利を重ね、3年生で成年(シニア)部門の日本代表に選ばれて、アマチュアの最高峰である世界選手権にまで出場した。

18歳で“怪物”のニックネームを引っ提げてプロデビューした後は、4戦目で日本チャンピオン、5戦目での東洋太平洋チャンピオン、さらには当時の日本最速記録となる6戦目で世界タイトルを獲得した。その後も連戦連勝で、2階級制覇、3階級制覇と記録を打ち立てていき、「日本ボクシング史上最高の選手」と呼ばれるまでになった。

現在、26歳の井上はワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)というトーナメント大会に出場している。WBSSとはボクシングでメジャーと呼ばれる四つのベルト認定団体(※1)のチャンピオンを一堂に集めたトーナメントで、「真の世界一を決める」をコンセプトにしている。サッカーのワールドカップのボクシング版という発想で、世界で人気を博しており、日本のファンには特に受けがいい。

かつて日本にはボクシング黄金時代があった。もう半世紀も前の話だ。その後は他のプロ格闘技イベントが加わり、エンターテインメントが多様化する中で人気が少しずつ落ちてきた。特に最近は認定団体が増えたため世界チャンピオンが増加し続けてその権威が失われ、高い放映権料を払うテレビ局の不景気も手伝い、ボクシングを取り巻く環境はますます厳しいものになっている。

そうした状況を打開すべく現れたのが井上であり、WBSSという舞台だと言えるだろう。井上自身もWBSSを、日本のボクシングを盛り上げる一つの起爆剤にしたいと考えている。

「自分にできることは、試合で最高のパフォーマンスを見せてお客さんに満足してもらうことです。KO勝ちが続くと、それだけ期待は高まり、プレッシャーは並大抵のものではありません。でも『プレッシャーはありますか?』と聞かれたら、『プレッシャーは大好物です!』と答えるようにしています」

WBSSの準決勝で勝利し、笑顔で帰国した井上尚弥=2019年5月21日、東京、羽田空港(時事)
WBSSの準決勝で勝利し、笑顔で帰国した井上尚弥=2019年5月21日、東京、羽田空港(時事)

2019年5月に行われたWBSSバンタム級トーナメント準決勝で、プエルトリコのエマヌエル・ロドリゲスに2ラウンド1分19秒、テクニカルノックアウト(TKO)で勝利を収めた。次なる舞台はWBSS決勝戦。対戦相手はフィリピンのノニト・ドネアで、11月7日、さいたまスーパーアリーナで行われる。“モンスター”の目の覚めるようなパフォーマンスに、私たちの期待は高まるばかりである。

バナー写真=2019年5月18日、英国グラスゴーで行われたWBSSバンタム級トーナメント準決勝で、エマヌエル・ロドリゲス(右)と対戦する井上尚弥(ロイター/アフロ)

(※1) ^ 世界ボクシング協会(WBA)、世界ボクシング評議会(WBC)、国際ボクシング連盟(IBF)、世界ボクシング機構(WB)。

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