エジプトの小学校に「日本式教育」、協調性など成果も

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学級会や日直など、日本の「特別活動(特活)」を取り入れた教育が、エジプトで行われている。約1万8000の全小学校の1年生用カリキュラムに組み込まれ、モデル校となる35の公立「エジプト日本学校」も開校。初年度末の5月には、協調性のある児童の増加など、成果の報告が届いた。

日本の「特活」で世界初の試み

「エジプト・日本教育支援パートナーシップ(EJEP)」と呼ばれるこの事業を担当する国際協力機構(JICA)によると、外国で特活が全国規模で導入されたのは、エジプトが初めて。

ピラミッドなどで知られるアラブの主要国だが、実は教育問題を抱えている。公立学校の教員の給料が低く、家庭教師の兼任や塾経営が社会問題化。学力偏重教育による児童・生徒の人格育成の欠如や、学校不足による1クラス70~80人の詰め込み教育、卒業生の就職率の低下などの多くの問題を抱え、国を挙げて教育改革に取り組んでいる。

こうした中で、エジプトのシーシ大統領は、時間を守り規律正しく、勤勉な日本人を「歩くコーラン(イスラム教の聖典)」と高く評価。アラブ諸国には「日本が先進国となったのは、教育制度が優れているから」という認識が定着しており、エジプトが日本に協力を要請した。

2016年に同大統領が訪日した際にEJEPが締結され、日本がエジプトで、保育園から大学まで日本式教育の特徴を生かした協力を行うことになった。

35の公立「エジプト日本学校」が開校

「人を育てる教育」としてエジプトが注目したのが、日本の小学校で学科授業以外に行われている特活だった。先行して公立12校で学級会などを試験的に始め、18年9月から本格的に日本式の特活や学校運営方法を取り入れた35の公立の「エジプト日本学校」を新設して開校した。

担当のJICA人間開発部基礎教育グループ、梯太郎さんによると、同じく18年9月の新学年度から、エジプト全小学校の1年生のカリキュラムに毎週45分の特活が組み込まれた。学級会、学級指導、日直の3つを行う「ミニ特活」を導入。

学級会では、行事などのテーマを児童の話し合いで決める中で、自分の意見を主張し、相手の意見も尊重できるようにしている。学級指導では、手洗いや歯磨きなどの生活指導や、あいさつ、友達を思いやる心などを身につけさせている。日直は交代で、クラスのリーダー役を経験、学級の世話も体験してもらう。こうした教育や指導は、これまで現地ではなかった。

昼食後に歯磨きする児童。これも生活指導の一環で、清潔感も高まり、自主的に行う子が増えている
昼食後に歯磨きする児童。これも生活指導の一環で、清潔感も高まり、自主的に行う子が増えている

特活の手本となるモデル校が、エジプト日本学校(EJS)だ。日本人子弟が通う日本人学校とは違い、現地の子どもが通う公立学校。ミニ特活に加えて、児童の朝自習、掃除、職員も互いの授業を参観して助言しあう校内研修や、職員会議なども取り入れている。

初めは掃除に強い反発

この中で、児童だけでなく保護者たちからも反発があり、問題となったのが教室などの掃除だった。現地では、掃除は社会階層の低い人の仕事とされ、初めはやりたがらない子も。「掃除をやらせるために、子どもをEJSに通わせているのではない」と怒る親もいたという。しかし、児童は友達が掃除している姿を見て加わり、自分たちが使う場所はみんなできれいにする習慣がつき始めてきた。自分の机も、自分できれいにするようになってきた。

みんなで教室を掃除する児童たち。初めは反発もあったが、最近では自分たちが使う場所は、みんなできれいにする社会性が身についてきた
みんなで教室を掃除する児童たち。初めは反発もあったが、最近では自分たちが使う場所は、みんなできれいにする社会性が身についてきた

JICAの教育の専門家らが、各校を巡回しながらアドバイスを続けている。また、これまでに校長や特活を指導する教員ら計42人を日本に招き、1カ月の研修を行い、“本場”の日本式教育を学んでもらった。今後も4年程度を目安に約700人の教員らを招く予定だ。

EJSはスタートして間もないが、早くも成果が出ている。①自己主張の強い人が少なくないエジプトだが、他の児童の話をよく聞き、他の人の意見を尊重するようになった②遅刻する児童が減り、校内のケンカも減った③家で掃除や、手伝いをする子が増えてきた――。

ただ、EJSは公立校なのに授業料が高いという問題がある。校舎は新しく、一クラス35~40人で、他の公立校の半分ぐらいと、環境はいい。しかし、年間の学費は日本円で6~7万円で、一般的な学校の5~10倍にもなる。

「EJSに特別な入学試験はないが、高所得者の子弟しか通えない学校にしないでほしいと、日本側はエジプトにお願いしている。奨学金制度の拡大も求めている。日本式教育の希望者が入りやすい公立学校であってほしい」(JICAの梯さん)

人材育成に期待するエジプト

カーメル駐日エジプト大使はEJSについて、「日本の経験から学び、エジプト社会の進歩と、教育分野の包括的な改革を目指すもの。教室や小学校を小さな社会とみなし、この社会を通じて児童に道徳心を植え付け、人格形成などに役立つと願っている」と期待している。

また、EJEPなどで両国の橋渡し役を務めたヒラール元エジプト高等教育・科学技術大臣は、「今、エジプトにとって一番重要なのは質の高い人材育成だが、現在の教育では難しかった。特活など日本式教育の特徴を生かしながら、少しでも教育環境が改善されることを願っている。そうして将来、社会を担う人材が育ち、この国を引っ張ってもらいたい」と述べている。

バナー写真:エジプトの小学1年生の日本式教育を導入した学級会。右奥は、アドバイスする青年海外協力隊員(撮影は全てJICAの光石達哉氏)

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