日本人のバナナ好き、ルーツは台湾にあり——歴史伝える門司港の「バナちゃん節」

暮らし 歴史

栖来 ひかり 【Profile】

日本の一世帯あたりバナナ消費量は年間18キロ、本数で約120本というから、日本人のバナナ好きも相当なもの。今では、日本が輸入するバナナの85%はフィリピン産だが、日本人がバナナ好きになったきっかけでもある「台湾バナナ」の歴史をひも解いていく。

台湾バナナをもう一度、日本の食卓へ

現在、内田さんは台湾中南部の雲林県で作られる品種「烏龍種」のバナナを日本へ輸出することに取り組んでいる。台湾でバナナの産地として知られるのは南部の屏東や高雄で、雲林産は珍しいが、これには理由がある。雲林は一般的な台風の進行ルートから外れているため被害を受けにくいことに加え、濁水渓という大きな川が流れており、土地が肥沃なのだ。この烏龍種バナナを育てているのが、人生のほとんどをバナナ生産に捧げてきたという蘇明利さん。バナナが立ち枯れたり、黒ずんだりするパナマ病のリスクを減らすため、稲作で使われる土地をバナナ農園に転換するなどこだわりを持って生産している。

烏龍種バナナは、比較的寒さに強く、秋から春にかけて開花するためじっくり果実が成長し、糖度が高く、味が濃厚で光沢のあるのが特徴だ。現在は日本のスーパーにも少しずつ販路を広げ、かつて台湾バナナの代表格と言われた「北蕉」を思い出す、懐かしい味がするなど好評を得ているという。しかし、フィリピンの標高1000メートル以上の高地で栽培されるハイランドバナナなど、いわゆる最高級品と同価格帯のため、流通過程におけるコストダウンが今後の課題という。

烏龍種バナナの生産農家の蘇明利(右)と息子の蘇竣奕(左)(内田直毅氏撮影)
烏龍種バナナの生産農家の蘇明利(右)と息子の蘇竣奕(左)(内田直毅氏撮影)

総務省の家計調査によれば、2018年の日本人のバナナ消費量は一世帯あたり年間18キロ(約120本ぐらい)というから、日本人のバナナ好きも相当なものである。しかし日本人がバナナを食べるようになったのは、明治時代に台湾を領有して以降のことで、歴史的にいえばまだまだ浅い。つまり現在の日本人のバナナ好きは台湾バナナとの出会いがきっかけになった、と言っても過言ではないだろう。しかし、そうした日台の歴史的なつながりについて、日本で理解が深まっているとは言い難い。

毎年の門司港のお祭りで行われるバナナの叩き売りの実演で使われるバナナが、台湾産ではないことに着目した「台農發股份有限公司」の内田さんは、2017年には当時のバナナ貿易の写真パネルと台湾バナナを提供したそうだ。確かに、日台をつないでいた内台航路という文脈が忘れられがちな現在、「バナナの叩き売り=台湾産」とイメージすることは難しいのかもしれないが、寂しい話である。台湾が人気の旅行先として、日本でますます存在感を高めている昨今だからこそ、おいしい台湾バナナが、再び日本の食卓に上ることを願っている。

烏龍種バナナ(内田直毅氏撮影)
烏龍種バナナ(内田直毅氏撮影)

『バナちゃん節』資料提供:門司区役所

バナー写真=門司港駅(筆者撮影)

この記事につけられたキーワード

台湾 山口県 バナナ 内台航路 門司港

栖来 ひかりSUMIKI Hikari経歴・執筆一覧を見る

台湾在住ライター。1976年生まれ、山口県出身。京都市立芸術大学美術学部卒。2006年より台湾在住。台湾に暮らす日日旅の如く新鮮なまなざしを持って、失われていく風景や忘れられた記憶を見つめ、掘り起こし、重層的な台湾の魅力を伝える。著書に『台湾と山口をつなぐ旅』(2017年、西日本出版社)、『時をかける台湾Y字路~記憶のワンダーランドへようこそ』(2019年、図書出版ヘウレーカ)、台日萬華鏡(2021年、玉山社)。 個人ブログ:『台北歳時記~taipei story

このシリーズの他の記事