日本の神話(1):大和王権が語る“歴史の起源”

文化 歴史

日本の建国神話は、『古事記』『日本書紀』に記されたものによっている。誕生の時代背景を解説するとともに、イザナキ・イザナミの国生み物語を紹介する。

イザナキ・イザナミの国生み神話

今回は、主として『古事記』によって、日本神話の世界を紹介しよう。

まず国生みの神であるイザナキ・イザナミの神名であるが、「イザナ」は「誘(いざな)う」という意味、「」と「」はそれぞれ男女を表している(オナ・オナのと同じ)。高天原(たかまのはら、天上の国)にいる天つ神(あまつかみ)からの指令を受けた二神は、高天原から天の浮橋(あめのうきはし)に立ち、アメノヌボコという矛を使って海水をかき混ぜる。その矛を引き上げると、矛の先から塩がポタポタと落ち、それが積もってオノゴロ島が出来(しゅったい)した。イザナキは、もともと淡路島を中心とした瀬戸内地方の海人(あま)族の神だったと言われており、オノゴロ島の話の背景には、古代の製塩法があるとも説かれている。

その島に降り立った二神は、神名が示すような「誘い合う男女」として、史上初めて夫婦となる。しかし女であるイザナミが先に声を掛けたためにヒルコが生まれてしまい、二神は葦船(あしぶね)に乗せ流し棄(す)てる。こうした行為の背景には、「夫唱婦随」という儒教思想の影響があったと言われている。

ヒルコは『日本書紀』でも「蛭児(ひるこ)」と書かれ、3歳になっても脚が立たないとされており、本居宣長は「蛭のような骨なし子」であると説いた。また900年代に成立した『新撰字鏡(しんせんじきょう)』や『和名抄(わみょうしょう)』という字書には、歩行困難になる病状として「ヒルム」という語が記されており、それがヒルコの語源であるとする説もある。

『記』『紀』では負の存在として描かれているヒルコだが、もとは男性太陽神だったとする説もある。『日本書紀』には太陽神アマテラスの別名として「オオヒルメ」という神名があり、それが「大(おお)+日(ひ)+る(「の」と同じ)+女(め)」、つまり「大いなる日の女」であるならば、ヒルコは「日の男」の意であろうというものだ。「」と「」は、「オトコ・オト」、「ヒコ・」、「ムス・ムス」の場合と同じく男女の意になり得る。大和王権がアマテラス以外の太陽神を認めるはずはなく、だから「蛭」として排除されたのだという。こうして流し棄てられたヒルコだが、その後に漂着し、豊漁をもたらす神になったとして、後世には蛭子神(えびすしん)と習合されることになった。

この後、イザナキ・イザナミは、イザナキ(男)から声を掛けるやり方で再び夫婦関係を持ち、淡路島をはじめとして、日本列島の島々を次々に生んでいった。列島の名は大八島国(おおやしまぐに)。「八」は多数を表す数字なので、「大いなる数多くの島々から成る国」の意味で、律令制下でも国内向けの日本の国号として用いられた。

バナー写真=日本三景の一つに数えられる天橋立(京都府宮津市)。『丹後国風土記』逸文によると、国生みをしたイザナキが天に通うために建てた橋が、同神の就寝中に倒れてできたという(PIXTA)

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