東芝が生んだ万能炊飯器「大同電鍋」、台湾で生まれ変わって日本へ再上陸

暮らし 経済・ビジネス

一青 妙 【Profile】

大同電鍋を持っているか否かで台湾人かどうか分かる

大学時代、夏休みを利用してドイツに短期留学をしたことがある。大学の宿舎に寝泊まりしていた際、部屋に大同電鍋があるかないかで、台湾人かどうかを一目で見分けられることに気が付いた。日本に留学に来ている台湾人らに、「大同電鍋持ってきている?」と聞くと、答えは全員「もちろん」である。

なぜここまで台湾人に大同電鍋が愛用されるのか。それは、台湾の食文化が大きく影響しているように思える。

台湾料理というと、日本人はどうしても炒めることを連想しがちだが、意外に多いのが「蒸す」と「煮る」という調理法だ。大同電鍋は炊飯の他、「蒸す」「煮る」も可能な複合調理器として台湾人に受け入れられ、広まったと考えることができるだろう。一方、日本料理には長い時間をかけて「蒸す」と「煮る」という調理法は実際あまり多くはない。大同電鍋が一台あれば、故郷台湾の味、家庭の味をいつでも、どこでも、簡単にかつ確実に再現できるのだ。

大同電鍋を使った蒸し料理(筆者撮影)
大同電鍋を使った蒸し料理(筆者撮影)

大同公司は時代の変化とともに、従来の白や緑、赤色の他に、ピンクや青、黒、黄色などの新しい色を出し、キャラクターとコラボした限定モデルなども打ち出した。中華圏を代表する映画賞の「金馬奨」の記念品に使われたりもした。

オリジナルの機能と形状がほとんど変化しなかったかわりに、消費者の利用法が進化し、大同電鍋で野菜を炒めることやピザを焼くことまで考案され、万能化がますます進む状況になっている。

私の東京の自宅近くにできた台湾のタピオカミルクティー専門店の店先には、ピンクや金色の大同電鍋が並べられていた。カラフルで、なかなかかわいらしい。インテリアの一つと思って見ていたら、タピオカを保温するために使われていた。本当に大同電鍋は便利だと改めて感心させられた。

大同電鍋を使用してタピオカを保温する都内の台湾タピオカミルクティー専門店(筆者撮影)
大同電鍋を使用してタピオカを保温する都内の台湾タピオカミルクティー専門店(筆者撮影)

台湾人の家庭に、少なくとも一台は必ずある大同電鍋。元々は60年以上前に日本で誕生し、海を渡って台湾に根付いたものだ。いま、再び日本に戻り、今度は台湾製品として広まりつつあることに、日本と台湾の不思議な縁を感じる。今後、日本料理向けの利用法が出てくるとさらに面白い。

科学博物館を訪れたあと、久々に、わが家にある大同電鍋で夕食を作ってみた。いつも私はだんだん重ねで使う。一番下段に鳥スープ。真ん中に瓜仔肉。最上段にマナガツオを置いて、スイッチポン。たっぷりの湯気と共に、台湾の香りが家中に漂った。やっぱり大同電鍋は便利だ。

バナー写真=売り場に並べられた大同電鍋(筆者撮影)

この記事につけられたキーワード

東芝 台湾 炊飯器 大同電鍋

一青 妙HITOTO Tae経歴・執筆一覧を見る

女優・歯科医・作家。台湾人の父と、日本人の母との間に生まれる。幼少期を台湾で過ごし11歳から日本で生活。家族や台湾をテーマにエッセイを多数執筆し、著書に『ママ、ごはんまだ?』『私の箱子』『私の台南』『環島〜ぐるっと台湾一周の旅』などがある。台南市親善大使、石川県中能登町観光大使。『ママ、ごはんまだ?』を原作にした同名の日台合作映画が上映され、2019年3月、『私の箱子』を原作にした舞台が台湾で上演、本人も出演した。ブログ「妙的日記」やX(旧ツイッター)からも発信中。

このシリーズの他の記事