虹がはためくのはいつか——日本と台湾のLGBT問題を考える

社会 ジェンダー・性

李 琴峰 【Profile】

根強い反対勢力、虹がはためくのはいつか?

同性婚の反対勢力は一体どんな人たちだろうか。

台湾の世論調査によれば、女性、若者、高学歴、無宗教、リベラル政党の人ほど、同性婚に賛成する割合が高い。反対勢力は国民党や中高年層を中心とした保守層、そしてキリスト教徒が多い。

台湾はむろん、キリスト教の国ではない。韓国ほどキリスト教の信者も多くなく、総人口の約7%に過ぎない。しかし彼らは膨大な人脈と財力を擁し、政治的影響力も大きい。しかも「同性婚が可決されるとエイズがはびこり、乱交と猥褻(わいせつ)が常態化する」といったデマを撒(ま)き散らし、「一夫一妻による伝統的な家庭を守る」ことを唱えれば、いとも簡単に他の保守層と合流し、民衆に影響を与えられるのである。2013年11月30日にキリスト教会は30万人を動員し、台北で反同性婚デモを行った。30万人という数字は水増しされたものかもしれないが、18年11月24日の国民投票で、民法による同性婚に反対した765万票という圧倒的多数は、偽りようのないものである。筆者ですら、国民投票の結果を見るまで彼らの動員力を過小評価していた。

では日本はどうか。現在国会で過半数を占める自民党は同性婚について一貫して慎重な態度を取っている。『LGBTに関するわが党の政策について』では、憲法24条「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」という文言を援引し、同性婚は想定されていないとしている。その代わり、には勿論(もちろん)ならないが、LGBTをはじめとするセクシュアル・マイノリティーに対する理解促進に取り込むとしている。いかにも保守政党の方針に見えるが、しかしながら、これまで女性やセクシュアル・マイノリティーに対して差別的な発言を繰り返してきた人の多くが自民党の政治家か、その支持者なのも事実である。2018年杉田水脈氏の「LGBTは生産性がない」旨の発言や、小川榮太郎氏の「LGBTを保障するなら痴漢だって保障すべきでないのか」という旨の発言も、今年平沢勝栄氏の「(LGBT)ばかりになったら国はつぶれてしまう」発言も、まだ記憶に新しい。このような保守政党はいかにして理解促進に取り組むか、筆者としては首を傾(かし)げずにはいられない。 

同性婚について、日本も台湾もまだ保守勢力が根強い。多様性を象徴するレインボーフラッグが日台ではためくその日を待ち望みながら、とにかく748法草案の行く末を見届けることとしよう。

末筆ながら、本稿は同性婚に焦点を当て執筆したが、筆者は同性婚がセクシュアル・マイノリティー人権運動の終点だと考えてはいない。同性婚以外でも課題は山積みである。人間は他者とは本質的に分かり合えない生き物かもしれないが、それでも平等への道筋において、日台の連帯を切に願う。

バナー写真=レインボーフラッグ(crossborder / PIXTA)

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日中二言語作家、翻訳家。1989年台湾生まれ。2013年来日。2017年、初めて日本語で書いた小説『独り舞』で群像新人文学賞優秀作を受賞し、作家デビュー。2019年、『五つ数えれば三日月が』で芥川龍之介賞と野間文芸新人賞のダブル候補となる。2021年、『ポラリスが降り注ぐ夜』で芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。『彼岸花が咲く島』が芥川賞を受賞。他の著書に『星月夜(ほしつきよる)』『生を祝う』、訳書『向日性植物』。
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