沖縄の「十六日祭」と台湾の「清明節」から考える移民の共生と文化の融合

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祖先を敬う気持ちは同じ

石垣島には、嵩田地区の他に、もう一カ所、台湾系の人たちの墓が集中している共同墓地がある。市街地に近い台湾同郷之公墓である。同公墓では、台湾の風習にならい、4月の清明節に合わせて墓参する人が多い。台湾系の人たちでつくる琉球華僑総会八重山分会も祭壇に供え物を用意して、焼きそばなどの料理を振る舞っている。

台湾系2世の東金三さん(66)は、清明節に合わせて同公墓内の墓で祖先を供養している台湾系住民の一人だ。十六日祭の日に話を聞いてみると、「うちは(墓参りをせずに)普段通りでした。台湾系の人は何人かが十六日祭をやったようです」と答えてくれた。十六日祭に墓参りをしたある家庭を例に挙げ、「この人は(台湾系ではない)八重山の人と結婚したから十六日祭に墓参りをやっていますよ」と付け加えた。

祖先を敬って墓に参る行為は個人的なものだが、その土地の人たちが同じ日に一斉に行うとなると、生きている人たちの間にも行き交いが生まれる。知人の墓へ線香を立てに行ったり、逆に自分の家の墓で迎えたり。八重山へ移住してきた台湾系の人たちは土地に溶け込んでいき、その中には、十六日祭という八重山ならではの仕組みで知人や親せきとコミュニケーションを取る人も出てきている。

東さんと同じように同公墓に墓を持つ高雄生まれの吉本美雪さん(67)は十六日祭でも清明節でも墓参りをする。八重山の風習と台湾の風習の双方にのっとっているわけだ。十六日祭の墓参りをするようになったのは、20年ほど前に台湾出身の父が亡くなってからのこと。「母が『他のみんなは食べているのに、お父さんだけ食べ物がないのはかわいそう』と言い、十六日祭もするようになりました」。絹子さんと似たような理由を説明する。

清明の墓参りも続けているのはなぜだろうか。

「台湾人なので、やるべきことはやりたい。できる限り守っていきたい。伝統的な行事ですから」。吉本さんはこう説明し、さらに「(この考え方は)八重山や沖縄の人と同じではないか」と付け加えた。伝統にのっとって祖先を敬おうとする気持ちに台湾も沖縄もないというわけだ。

十六日祭の墓参りに訪れ、台湾同郷之公墓の納骨堂に供え物をする人たち、2010年3月1日、沖縄県石垣市(筆者撮影)
十六日祭の墓参りに訪れ、台湾同郷之公墓の納骨堂に供え物をする人たち=2010年3月1日、沖縄県石垣市(筆者撮影)

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