あなたは「山本頭」を知っているか?!

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栖来 ひかり 【Profile】

丸刈りで額をM字型にそり込むのが特徴

具体的に「山本頭」とは、どんな髪型を指すのだろうか?

それを知るために、台北市中山区の理髪店「三郎の髪」を訪れた。機械修理店や小さな工場が立ち並ぶ中に、近ごろではおしゃれなカフェやセレクトショップが次々と出店して日本や香港からの観光客も多く訪れる「赤峰街」の、細い路地の奥に「三郎の髪」はある。

「三郎の髪」(筆者撮影)
「三郎の髪」(筆者撮影)

オーナーの三郎さんは、台中大甲の生まれで現在74歳。17歳のときに台北に来て理髪の仕事に就き、40歳で独立開業。赤峰街近辺で場所を変えながら今の場所に落ち着いて12年になる。初めて「山本頭」を知ったのは三郎さんが30歳ぐらいの時で、お客さんが持って来た俳優の渡哲也さんの写真がきっかけだったそうだ。三郎さんの「山本頭」技術には非常に定評があり、「豚肉王子」というニックネームで知られる台湾の有名歌手・蔡小虎さんも常連で、壁にはたくさんのサイン入りポスターが貼ってある。筆者が訪れたときも、ちょうどお客さんが「山本頭」に理髪中だったので、詳しく聞いてみた。

店内にはたくさんのサイン入りポスターが貼ってある(筆者撮影)
店内にはたくさんのサイン入りポスターが貼ってある(筆者撮影)

まず、長さは全体的に約0.3ミリから1センチぐらい(人によってはもう少し長いこともある)。ポイントは額の部分がM字型になっていること、つまり「そり込み」が入っているところで、「平頭」(スポーツ刈り・丸刈り)の一種ということだった。三郎さんのファンは多く、店には次から次へとお客さんが入ってくる。伸びた髪が嫌いなので、10日に一度は通っているという人や、以前は肩よりも長く髪を垂らしていたが、三郎さんの山本頭にはまり半年になるという若い男性もいた。

「山本頭」をカットするお客さん(筆者撮影)
「山本頭」にカットしてもらう男性(筆者撮影)

理髪が終わり顔をきれいにそり終えたお客さんは、これ以上ないほど「山本頭」が似合う方である。口数少なく、少しはにかんだ様子がどこか俳優の高倉健さんを思わせる。ちなみに高倉さんや俳優の菅原文太さんらが出演した日本のやくざ映画も、台湾では人気がある。

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台湾在住ライター。1976年生まれ、山口県出身。京都市立芸術大学美術学部卒。2006年より台湾在住。台湾に暮らす日日旅の如く新鮮なまなざしを持って、失われていく風景や忘れられた記憶を見つめ、掘り起こし、重層的な台湾の魅力を伝える。著書に『台湾と山口をつなぐ旅』(2017年、西日本出版社)、『時をかける台湾Y字路~記憶のワンダーランドへようこそ』(2019年、図書出版ヘウレーカ)、台日萬華鏡(2021年、玉山社)。 個人ブログ:『台北歳時記~taipei story

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