「国際子ども平和賞」受賞・川﨑レナ—「悔しい」ではなく「ワクワク」できる国を目指して

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2022年11月、「国際子ども平和賞」を受賞して注目を集めた川﨑レナさん。過去の受賞者にはノーベル平和賞受賞者のマララ・ユスフザイさんや、環境活動家グレタ・トゥンベリさんも名を連ねる。「変わりそうにない日本が悔しい」という思いからさまざまなプロジェクトに取り組む17歳の「チェンジメーカー」は、日本の若者の今をどう捉えているだろうか。

川﨑 レナ KAWASAKI Rena

2005年大阪府生まれ。関西学院大阪インターナショナルスクール12年生。世界には政治的事情で教育を受けられない子どもたちがいると知ったことがきっかけで、教育や人権についての活動を開始。2020年、14歳で国際的NGOの日本支部「アース・ガーディアンズ・ジャパン」を立ち上げる。同年10月から22年6月まで、環境問題に取り組むバイオベンチャー企業ユーグレナの2代目「CFO(最高未来責任者)」を務めた。22年11月、オランダに本拠を置く児童権利擁護団体「キッズライツ財団」が、世界46カ国175人以上の候補の中から、「国際子ども平和賞」受賞者に選出。

恵まれた環境で気付いた「格差」

川﨑レナさんは、幼稚園からインターナショナルスクールに通う。英語でしっかり自分の考えを伝えられる人間になってほしいと、両親が望んだからだ。「2人とも米国への留学経験がありますが、英語力がないせいで伝えたいことをうまく表現できなかったそうです」

自分は恵まれた環境に生まれたと気付いたのは、8歳のとき。学校の図書館で手に取った『ランドセルは海を越えて』がきっかけだった。日本で使わなくなったランドセルを、アフガニスタンの子どもたちに送る活動を伝える写真集だ。丈夫なランドセルは、校舎が破壊されて学校に通えない子どもたちの机代わりにもなる。

「朝起きて、『今日は学校に行きたくない』と感じる自由が、私にはあります。一方で、この子たちは教育を受けるために、毎日闘わなくてはならない。『どうして?』という思いと、怒りが込み上げました」

恵まれているという「特権」を持って生まれたからこそ、彼らのために「行動を起こさなければ」と感じた。自分たちにできることは何かと考え、クラスメートと協力して文化祭に出店、お手製の文具やポストカードなどを販売した売り上げを難民キャンプに送った。

オランダ・ハーグの「国際子ども平和賞」授賞式で、プレゼンターのイエメンのノーベル平和賞受賞者タワックル・カルマン氏と(提供:KidsRights 2022)
オランダ・ハーグの「国際子ども平和賞」授賞式で、プレゼンターのイエメンのノーベル平和賞受賞者タワックル・カルマン氏と(提供:KidsRights 2022)

「デジタルネイティブ」の強み

2020年、コロナ禍で世界が内向きに閉じていく中で、オンラインを駆使して自らの可能性を広げた。

「学校はオンライン授業になってしまい、家の中であまりすることもなかった。何年か活動しても、何も変えられないと感じていた頃です。自分が考える課題にどう取り組めばいいのか、悩んでいました」

オンラインインタビューに答える川﨑さん
オンラインインタビューに答える川﨑さん

そんな時、ネットで米テキサスを拠点として環境問題に取り組むNGO「EarthX」が大学生対象に実施しているインターンシップを知る。まだ中学生で日本在住だが、やってみたいと担当者に何度もメールして、「説得」した。「インターンとしてモデレーターを務めたオンラインイベントを通して、政府に若者の声を届ける活動をしている『アース・ガーディアンズ』の国際支部代表の若者たちと出会いました」

自分も彼らのように、Z世代の「デジタルネイティブ」の強みを生かしてネットワークを広げ、世界を変えていきたい。そんな思いから、同団体の日本支部を立ち上げた。

現在は11歳から18歳まで、全国約50人のメンバーを中心に、政治家と若者のZoom会議や大阪の河川清掃活動など、さまざまなプロジェクトを実施している。

多様な個人の「サステナビリティ」

食品からバイオジェット燃料まで、幅広い事業を展開するユーグレナは、2019 年から、18歳以下の「CFO(最高未来責任者)」のポストを設置、積極的に10代の声を会社の経営に取り込んでいる。すでに「アース・ガーディアンズ・ジャパン」をスタートしていた川﨑さんは、企業でも活動してみたいと2代目CFOに応募して、任命された。

「(CFO応募者の中から選ばれた)5人の『Future サミットメンバー』と、サステナビリティについて話し合いました。サステナビリティは、自然環境だけでなく、個人がやりたいこと、志を格差なく実現できるような環境も含みます。例えば、心と体の健康が維持できる環境です。そのことに改めて気付きました」

「Future サミットメンバー」と一緒に(提供:ユーグレナ)
「Future サミットメンバー」と一緒に(提供:ユーグレナ)

“Well-being innovation” をテーマに掲げて、Futureサミットメンバーと共に会社にさまざまな提言をした。特に手応えを感じたのが、お互いを知り、多様性の許容につなげるための社内向けワークショップの実施と、新たな人材育成制度の導入だ。

「本当に多様性を守れる会社になるには、新しい仲間が会社に加わる段階から気遣い、思いやりを持てる人材に育てる仕組みが必要です。それで提案したのが、ペアレンツ制度です」

22年4月にスタートした同制度は、新しく入社するメンバー一人ひとりに、地位や年齢を問わず選定した2人の先輩(ペアレンツ)をつけ、サポートする。世代や部署を超えたコミュニケーションの仕組みでもある。「効果を数値化することはできないけれど、社内カルチャーを変えていくポテンシャルがあると感じました」

公立校の中の “多様性”

小1から中3まで、インターナショナルスクールが夏休みの3カ月間、公立の学校に通った。「髪を染めて耳にはピアスが普通の環境で育ったので、公立に行くときは髪を黒く染め直し、ピアスも外しました。でも、学校は楽しかったし、地元の友人ができたのも公立に行ったから。日本の教育の良さも公立に通えたから分かりました」

一昨年、私立・公立校の生徒と教員に話を聞き、日本の教育に関する8分間のドキュメンタリーを制作した。公立の場合、どの地域でも平等に同じカリキュラムで学べるのが利点という声がある一方、「出る杭は打たれる」「多様性が受け入れられないのが課題」という声が目立った。

川﨑さん自身は、公立の方がある意味で “多様性” があるとも感じたと言う。

「公立にはひとり親の子もいたし、給食で何とか空腹を紛らわせる(貧困家庭の)子もいました。インター(ナショナルスクール)は、やはり豊かな生活が普通にできている子が多い。授業では、貧困問題をはじめ、さまざまな社会課題について学びました。でも、現実の貧困を知りません」

実際に格差の中で生き、生きづらさを抱えている生徒こそ、学校でもっと社会課題について学ぶ機会があれば、視野が広がり、自分たちで社会を変えようという前向きの問題意識が生まれるのではないか。そう強く思った。

「公立の良さを生かしつつ、自分たちが直面している課題について考える授業があればいい。日本の現状を否定するだけでなく、良いところも認めてさらに伸ばしていこうとする視点が身に付く教育であればもっといいと思います」

東京・渋谷のスクランブル交差点前で(提供:KidsRights 2022)
東京・渋谷のスクランブル交差点前で(提供:KidsRights 2022)

若者は政治に“無関心”なのか

「国際子ども平和賞」受賞スピーチでは、活動を始めたきっかけを「自分の生まれた国に誇りを持てない」ことに対する「悔しさ」だと語った。

「同世代の思いを代弁したつもりです。私の知る限り、みんな政治家に怒りや不信感を持っています。デジタルネイティブだからこそ、小さい時からネガティブなネットニュースを目にしてしまう。職権を乱用する政治家や、他の人の答弁中にいびきをかいて居眠りする議員とかに怒りを感じて、悔しいと思うのは当たり前です」

日本では、若者の投票率の低さがよく問題にされる。政治に無関心だからではなく、自分たちの意見はどうせ聞いてもらえない、投票しても何も変わらないと思っていることも一因だと川﨑さんは指摘する。

若者と政治をつなげる場が必要だと考え、地域の学生と政治家をバーチャル会議でつなぐ「政治家と話してみようの会」を立ち上げた。

地元の大阪では、府議会や市議会の議員に参加してもらった。「所属政党を問わず、政治家としてのしっかりした意志を持っていると感じました。だからこそ、私たちも政治や社会問題に興味があるというメッセージを届けたい。どうせ上の世代は話を聞いてくれない、どうせ若者には関心がないとか思うだけなら、分断がずっと続きます。お互いに話をしてみて、若者はいろいろな問題意識を持っているのだと初めて気付いたと言う議員もいました」

「とにかく、自分たちの意見をどんどん出して話し合うこと。お互いの意見を受け入れなくてもいい。価値観が違っても共感できることは絶対にあると、活動の中で感じました。そこから、どんな建設的なアイデアを生み出し、実行できるかが今、一番大事だと思います。怒りを上回るだけの希望をくれた大人たちがいたからこそ、活動を続けています」

最近は「ワクワク」が多い

高校卒業後は、海外の大学に進学し、行政学と社会学を専攻する予定だ。「学びながら、どうすれば世論は動くのか、若者に政治に興味を持ってもらえるかを考えたい」

将来は、日本で行政の仕事をしたいと思っている。これまで、東京都の持続可能な街づくりや、愛媛県新居浜市で若者の声を市政に反映させる試みにも関わった。こうしたプロジェクトに取り組む都庁や市役所の職員たちが、「すごくキラキラしているように思えた」からだ。「市民と政治をつなぐ仕組みを作っている人たちだと感じました」

未来の街づくりを構想する「東京ベイeSGプロジェクト 」にも協力している。東京都庁前で(提供:KidsRights 2022)
未来の街づくりを構想する「東京ベイeSGプロジェクト 」にも協力している。東京都庁前で(提供:KidsRights 2022)

「まず、地方行政で、女性、若者、マイノリティーの人たちのサポートがしたい。そして、地方の政治、システムから変えていきたい。最近は『悔しさ』よりも、『ワクワク』『楽しさ』が活動の原動力になっています」

バナー:KidsRights 2022

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