
「反国際主義」のトランプ関税:穏便なアプローチより毅然とした態度を
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米国のトランプ政権が過激な関税政策を打ち出した。自国の産業を守るためと称して、相手国別にその国の貿易障壁に見合った関税(米国の言うところの相互関税)をかける政策だ。
これに対して日本の政府や経済界は、日本企業の対米投資による貢献などを理由に、日本製品を例外とするよう要求するなどのやり方で解決策を見出そうとしているように見受けられる。
冷静に、話し合いを通じて事態を解決せんとする姿勢そのものは、非難できない。けれども、実利を重んじ、できるだけ穏便に交渉しようとするやり方には、大きな落とし穴がある。
そもそも今回の米国の関税政策は、日米間の通商協定や貿易取り決め、そして何より世界貿易機関(WTO)などの国際条約に違反する疑いが強い。そうだとすれば、本来、最もまともな対処の仕方は、WTOへの提訴などを通じて、紛争の解決を国際的調停に委ねるとともに、国際世論を喚起して、米国の一方的行為の不当性を広く訴えることであろう。
ところが、目下、米国の横やりもあって、WTOの紛争処理メカニズムはほとんど機能不全に陥っている。したがって、国際的調停に委ねることは困難である。
こうした状況下で、個別に米国と協議するのは、米国が国際的約束や国際機関の活動を無視して行動することを、各国が事実上容認することになりかねない。
トランプ政権は、環境保護に関するパリ協定から脱退するなど、貿易以外の面でも国際的な協調を無視しようとしている。したがって、米国の関税政策に対する日本の対処の仕方は、米国の身勝手な行動には反対する立場に立つものでなければならないはずである。
なぜ、このことが重要かといえば、姑息(こそく)なやり方で事態の収拾を図ることは、日本の利己的利害をある程度守れても、国際世論を喚起できず、国際貿易秩序の長期的な安定には役立たないからである。
さらに重要な点は、トランプ政権の関税政策が、政権の基本理念である3つの「反」を反映していることだ。すなわち第1に、反知性と反理念、第2に、反組織と反制度、第3に、反国際主義である。そうとすれば、この政策に対して、できるだけ穏便に対処せんとする姿勢は、3つの「反」を、間接的に是認することにつながりかねないのである。
したがって、ここでは、日本の国際社会全体に対する基本的姿勢が問われていることを忘れてはならない。日本は毅然とした態度をとり、自由貿易をめぐる国際秩序の維持、強化に努めることを、同様の考えを持つ国々と連携しつつ、改めて強く打ち出さねばなるまい。
加えて、健全な日米関係の維持、強化も考える必要がある。ロシアの侵略的行為や中国の軍事的台頭を前にして、日米同盟の強化を求めるならば、防衛費の増額や日米共同作戦態勢の構築もさることながら、米国との価値観、理念の共有の確認こそが大切である。
防衛は、単に国土や経済圏を守るものではなく、自由、民主、人権尊重、地球環境保全などの価値や理念を守るものでなければならない。そうであるなら、まずもって、日米双方が共通の価値や理念を損傷するような行動を慎むことが大前提でなければならない。
相互主義は、相互の経済的利益のバランスだけであってはならず、理念や価値観の相互共有でなければならない。これらを米国に明確に指摘するためにも、日本自身が、国内でそうした価値観を重視する姿勢を示し、政策を実行せねばなるまい。
こうした観点に立てば、政界における金権政治の一掃、経済界での談合や人権軽視の経営体質の改善も、実は、国際的意味合いを持つものとして、国会はじめ広く社会で論議されるべきではあるまいか。
バナー写真:トランプ米大統領との電話会談終了後、取材に応じる石破茂首相(右)。左は林芳正官房長官=2025年4月7日、首相公邸(時事)